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肝胆膵治療と緩和ケアに実績 天和会松田病院

肝がんの手術をする松田院長(左から2人目)

手術を終えて一息つく(左から)岩藤外科医長、松田院長、岩木麻酔科医長

 70代の女性に対する肝がんの切除。自覚症状はなかったが、C型肝炎治療後の経過観察で、2センチの大きさの早期がんが見つかった。約3時間をかけて、肝臓を8分の1切除したほか、併発していた胃と食道の静脈瘤も治療した。

 松田病院は消化器疾患の専門病院。その中でも患者が多く治療の難易度も高い肝がん、胆道がんの実績が高い。昨年1年間の肝臓、胆道、膵臓(すいぞう)の手術件数は計131件。岡山県内では四つしかない、日本肝胆膵外科学会が認定する「高度技能修練施設(A)」の一つだ。

 B型・C型肝炎ウイルスなどによる慢性肝炎や肝硬変が原因となることが多い肝がんの外科的治療は、あらゆるがんの中でも高い専門性が求められるものの一つ。肝臓には多くの血管が入り組んでおり、心臓からも大量の血液が供給されているため、ひとたびこれを傷つけると大出血につながる恐れがあるからだ。

 腫瘍が1個だけの場合は切除を選択するが、高性能の術中超音波で血管の位置を確認しながら手術をするため、松田病院で輸血が必要となったのは全症例の5%にも満たない。

 切除ができるのは新患患者の半数程度。開腹し腹水が出たり肝臓が硬くなっていれば、肝不全を起こす恐れがあるため手術を見送らざるを得ない。その見極めには長年の経験がものをいう。

 切除以外の選択肢として、腫瘍が2、3個あっても大きさが3センチ以下のケースでは、おなかから針を刺し電磁波で腫瘍を焼き切るラジオ波治療、3センチを超えれば塞栓療法、4個以上なら腫瘍の大きさに関係なく、塞栓療法か化学療法を選択する。松田忠和院長は「肝臓の障害度、患者の全身状態などを勘案し術式を決める」と話す。

 塞栓療法では昨年4月に保険適用されたビーズ治療をいち早く導入。ビーズ治療とは脚の付け根からカテーテルを肝動脈に通し、抗がん剤を混ぜた粒子(ビーズ)を注入しがん細胞への血流を遮断し死滅させる。いわばがんの兵糧攻め。従来法より、確実に奥深くまで抗がん剤を到達させることができるとされる。副作用が少なく肝臓に与えるダメージが軽いため、早期退院が可能。これまでに50例行った。

 代表的な膵がんの膵頭十二指腸切除も年間平均十数例実施している。これも、膵液が漏れれば血管を溶かし出血を引き起こす難易度の高い治療。術中の死亡率は数パーセントもあるとされるが、松田病院では過去20年年、死亡例はゼロだ。

 「肝胆膵がんは他のがんに比べると予後が悪いのは事実だが、中には劇的に回復する人がいる。医学データでは説明が付かない。だからこそ、最後まで全力を尽くすんです」と松田院長。

 肝臓がんは大腸など別の臓器のがんが転移するケースも多い。こうしたケースでも、岩藤浩典外科医長らが原発巣、松田院長が転移巣と、一度の手術で切除することができる。岩藤医長は腹腔(ふくくう)鏡やESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という難易度の高い低侵襲治療を年間30例手掛けている。

 岡山県内の病院に先駆け、消化器がんのERAS(イーラス)という欧州発祥の術後の回復力強化プログラムを2008年に導入。術前術後の絶食をやめて早期に食事を再開したり、術後3時間からリハビリを開始したりしており、その結果、従来は2週間程度の入院期間を1週間程度に短縮することができた。

 肝胆膵がん治療では、近隣の大規模病院から患者を紹介されることもある。

 いつでも急患を受け入れ緊急手術ができるよう、麻酔科医が常勤するのも松田病院の特長。岩木俊男麻酔科医長だ。

 岩木医長はがんの緩和ケアにも力を入れている。膵がんや胃がんなどに対しては、痛みを長期間抑える腹腔神経叢(そう)ブロック、骨や脊髄神経、腹膜に転移したがんに対しては硬膜外ポートといってカテーテルを脊柱管内の硬膜外腔に留置してモルヒネを投与する。麻薬の副作用が少ないため、日常生活レベルを落とさずに在宅へ移行できる。岩木医長はこれらを年間に約30例ほど実施している。

 がん化学療法看護、緩和ケア、皮膚排泄(せつ)と、3人の看護認定看護師による専門外来も開設。退院後の体調の変化に気を配り、日常生活で注意することなどを助言する。

 松田院長は「高水準の医療を維持し、なおかつ小回りが利くのがうちのメリット。スタッフ全員でがん患者のQOL(生活の質)を支えたい」と話す。

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 天和会松田病院((電)086―422―3550)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月20日 更新)

タグ: がん松田病院

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