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(5)自分らしく過ごせる場所~院内学級 倉敷中央病院小児科病棟看護師長 浜田美和

院内学級は入院中の子どもたちの「病気に立ち向かう心」や「人とともに生きる力」を育む大切な場所になっている

浜田美和小児科病棟看護師長

 「あの薬、苦くて飲みたくないわ」「僕も大嫌い。でもなんとか飲めるようになったで」「早くおすしが食べたいなあ」。薬の投与や検査、食事制限などを受けながら院内学級に通う子どもたちのある日の会話です。

 当院には、倉敷市立倉敷東小学校、東中学校の特別支援学級(病弱・身体虚弱)として設置されている院内小・中学校(院内学級)があり、入院中の子どもたちは今まで通っていた学校から転校して、この院内学級に通うことになります。児童・生徒の数は月平均4~6人で、多い時は10人になることもあります。約8割の子どもは小児がんで、ほかに腎臓や神経の病気、骨折などの子もいます。学年も病気も違いますが、ここで出会った新しい友だちと担任の先生とで、一緒に学校生活を送っています。

 小児がんの子どもたちは治療のため、半年から1年以上の入院生活を送ります。病気が分かり、入院することになった子どもたちが受ける大きな衝撃の一つは「学校を長く休まないといけない」ことです。大好きな友だちと遊べなくなる、お気に入りの授業が受けられない、学習が遅れてしまう…と、心配事は尽きません。

 そんな子どもたちの不安を和らげることができるように、院内学級の担任は、前の学校の先生と連絡を密に取り、学習進度や子どもの興味、関心、体調などに配慮しながら、学習支援をしています。授業の中に週に2、3回、自立活動の時間があります。楽しいレクリエーションや学級園で育てた野菜を使った調理実習をして、精神的な安定を図り、治療に前向きに取り組むことができるようにしています。もちろん、宿題もこなさなければなりません。退院が近づくと、子ども・家族・学校・医療者で話し合いの場を設け、スムーズに前の学校に復学できるようにしています。

 毎日治療に全力で向き合っている子どもたちにとって、教室はストレスから解放され、自分らしく過ごせる場所のようです。治療による副作用の吐き気でご飯が食べられなかったり、眠れなかったりすることがあるにもかかわらず、点滴をしながら、果敢に登校します。医療者の前では神妙な面持ちで話を聞くことが多い子どもたちが、教室では自らの言葉で、怖い検査のことや嫌な薬のことを包み隠さず友だちや担任に伝えています。友だちの苦しみを共有し、支え合っているのです。

 まさに「病気に立ち向かう心」「人とともに生きる力」を育む大切な場所になっているのではないでしょうか。ご家族が院内学級でのわが子を見て、「うちの子はこんなにたくましかったんだ…」と涙される姿をよく目にします。大きな病院の中の小さな一角ですが、最も生命力に満ちあふれている場所かもしれません。

 私たち医療者は、子どもたちが安全に楽しく学校生活を送り、治療に向き合えるように、院内学級の先生と情報共有し、連携してチームでサポートしています。院内保育士が2人おり、乳幼児や学童期の子どもたちの健やかな成長・発達につながる療養生活の支援もしています。

 次回は、小児がんの子どもたちや家族にとってなくてはならない「心理的サポート」について触れたいと思います。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 はまだ・みわ 倉敷天城高校、倉敷中央看護専門学校卒。倉敷中央病院血液内科、小児科勤務を経て2000年から倉敷中央看護専門学校で専任教員。11年から小児科病棟看護師長。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月16日 更新)

タグ: がん子供倉敷中央病院

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