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患者「さま」から「さん」に 岡山県内病院 呼称戻す動き

「患者さん」を使う倉敷中央病院内の看板

 「患者さま」から「患者さん」に―。岡山県内の病院で、患者の呼称をかつての「さん」に戻す動きが出ている。患者を尊重し職員意識も高められる、と広まった「さま」だが、当の患者からは「居心地が悪い」「不自然」などの声が少なくないという。医師に理不尽な要求をする「モンスターペイシェント(怪物患者)」を招いた一因との反省もあり、患者と医療スタッフの関係を問い直す一石となりそうだ。

 倉敷中央病院(倉敷市美和)は7月、15年ぶりに「さま」を「さん」に戻した。外来の診察室、検査室、受付や病棟ナースコールでの呼び出しをはじめ、検査説明書や入院案内などの印刷物、院内掲示、ホームページも順次修正する。

 ただ、広範囲の患者を指す場合は「患者の皆さま」を使い、全館放送や予約券、診療費領収書なども名前に「さま」を付ける。使い分け事例の文書を各部署に配った。診察時や病棟ではもともと、「さん」を使う医師、看護師が多いという。

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 「患者から『さん』の方が適切と意見が寄せられている。『さま』では居心地が悪いのでないか」「職員も違和感を感じている」。医師や看護師、事務職員ら病院全体で取り組む患者満足改善委員会で1月、報告されたのがきっかけ。大磐明子患者・職員サービス室長は「変更後は『距離感が縮まり話しやすくなった』など患者、職員とも好評」と語る。

 津山中央(津山市川崎)、金田(真庭市西原)、岡山済生会総合(岡山市伊福町)などの各病院も昨夏以降、「さん」に戻した。岡山市民病院(同市天瀬)や水島協同病院(倉敷市水島南春日町)も検討している。

 「患者と医療スタッフが協力して治療するのに、『さま』は丁寧すぎる」などが理由。金田病院の金田道弘院長は「変更は世の流れ」とみる。

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 電話相談などで患者中心の開かれた医療を目指すNPO法人「ささえあい医療人権センターCOML」(大阪市)の辻本好子理事長によると、「さま」は1990年代半ばに使われ始めた。2001年、厚生労働省が患者の名前には原則、「さま」を付けるよう当時の国立病院に求め広まった。

 だが、京都大病院(京都市)が2006年から「さん」に戻したのをはじめ、東京や関西でも見直しが相次いでいる。背景には「さま」の形骸(けいがい)化や、モンスターペイシェント、医師らへの患者、家族の暴言、暴力が増える中、患者を言葉だけで持ち上げることへの反省が医療現場にあるという。

 「さま」を貫く病院もある。心臓病センター榊原病院(岡山市丸の内)は「医療を受ける側、行う側が対等な信頼関係を築きたいとの願いで1932年の開設当初から『病客さま』という言葉を用いており、変更の考えはない」と言う。

 辻本理事長は「個人的には『さん』がいい」とした上で指摘する。「要は言葉よりマインド。中には『さま』を好む患者もいる。だが、患者からは言い出しにくい。医師や看護師が尋ね希望を伝えられるような横並びの関係が理想でしょう」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年10月22日 更新)

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