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不安と安心が交錯 廃案の障害者自立支援法案 将来の生活展望見えず

自立支援法案反対の横断幕などを掲げ、行進する障害者ら=8月5日、岡山市内

 国会で審議された「障害者自立支援法案」が衆院解散を受けて廃案となり、来年一月の施行が困難となった。厚生労働省は臨時国会で再提出する構えだが、政局の動きによっては流動的。障害者の自己負担などをめぐり多くの反対があっただけに、岡山県内の障害者からは安心する声がある一方で、将来の展望が見えない不安も聞こえてくる。

 「正直、ほっとした」と話すのは、重度の身体障害者を中心とした小規模作業所「いち・にのさん」(岡山市丸の内)を営む西田弘子さん。サービスの自己負担が所得に応じた「応能負担」から原則一割の「定率負担(応益負担)」になるなど法案の中身に疑問を持っていたからだ。

 作業所の運営は現在、市と国からの補助でほぼ成り立ち、所得のない利用者の自己負担はゼロだが、支援法では負担を求めることになる。「お金を払ってまで来るのか。結局、『家にいろ』ということになり、社会参加を進める今の流れに逆行する」と反発する。

 自立支援法が出てきた最大の理由は、二〇〇三年度に始まった支援費制度の財政破綻(はたん)。在宅サービスは〇四年度だけで三百億円近くも不足した。法案は利用者に一定の負担をしてもらう代わりに、当初予算を超えた場合に、国や都道府県が補正予算を組むなどして必ず負担するよう義務的経費に改めた。

 知的障害者の団体「岡山県手をつなぐ育成会」の徳田公裕会長は「自立支援法は問題点もあるが、支援費が破綻している以上、財政的な裏付けが必要。廃案にしても安心できる対案がない」と危機感を募らせる。

 厚労省は、一月施行を前提に本年度予算を組んでおり、たちまち予算不足が避けられない情勢。来年度以降も、新法次第で制度自体が大きく変わってくるだけに、「廃案で関係者の動きが全面的にストップする。郵政の問題で障害者の生活が棚上げされるのでは困る」と徳田会長は訴える。

 支援費制度の枠外だった精神障害者はより複雑。自立支援法により、身体、知的障害と同じように福祉の恩恵が得られる「期待」もあったが、通院医療費の公費負担見直しなどで自己負担が増えたり、障害に対して正当な評価がされるかどうか「不安」もあるからだ。

 支援量を決める客観的基準として自立支援法では「障害程度区分」が導入されるが、岡山県精神障害者家族連合会の鵜川克己会長は「他障害に比べ軽く判定されるのではないか」と懸念する。

 障害程度区分の試行事業が今夏、岡山市など全国六十一都市で行われたが、身体機能を中心とした介護保険の要介護認定に酷似した内容で、対人関係などで問題を抱えやすい精神特有の問題の評価方法が確立されていない。「調査する人によって判定が大きく変わる可能性がある」と鵜川会長は指摘する。

 財政問題で待ったなしの状態の障害者福祉。だが、厚労省の社会保障審議会障害者部会委員の岡田喜篤川崎医療福祉大学長は「自立支援法は『自立』の考え方などをめぐり、障害者福祉が培ってきたものと異なる点もある。自立をどう定義し、どんな支援が求められるかという本質的な議論が今こそ必要」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年08月26日 更新)

タグ: 福祉医療・話題

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