文字 

第1部 さまよう患者 (6) 放射線治療 専門家不足 越県し受診

多方向からがんを狙い撃つ定位放射線治療。高精度の治療には経験豊富な専門家が欠かせない=岡山大病院

 「毎朝2キロの犬の散歩や農作業も治療前と変わらずできる。息切れや胸の痛みがあった手術後と違いますね」

 福山市駅家町、三島睦彦さん(78)は昨年12月上旬、岡山大病院(岡山市北区鹿田町)を受診。言葉を弾ませ金澤 右 ( すすむ ) 教授(放射線科)に報告した。

 かつて地元の病院で手術した肺がんが再発。これ以上肺を切ると、ボンベによる酸素吸入が日常的に必要になる。手術を避け、放射線で病巣を狙い撃つ「定位放射線治療」を11月に受けた。

 治療台に固定した体の周りを照射装置が回り、多方向から放射線を当てる。体の正面と背後など一定方向から照射する通常の放射線治療より、がん周辺の正常な組織を傷つけにくく副作用が少ない。

 入院して1日30分ずつ、4日間照射を続けた。がんはCT(コンピューター断層撮影)画像から消えつつある。

  ~

 放射線治療の推進は、2007年に策定された国の「がん対策推進基本計画」の重点課題の一つ。手術に比べ患者の体の負担が軽く、技術の進歩でがんの部位によっては手術と同等の効果が認められている。ところが、需要の高まりに人材確保が追いつかない。

 岡山県の場合、放射線治療を行うのは11医療機関。これに対し、5年以上の研修や診療を積んだ日本放射線 腫瘍 ( しゅよう ) 学会などの認定医は7機関13人、認定技師は6機関14人しかいない。

 認定医以外も治療はできる。だが「装置が高度化し“プロ集団”でないと扱いが難しくなっている。専門家が圧倒的に足りない」。金澤教授は指摘する。

  ~

 中でも高度な肺がんの定位放射線治療は04年に健康保険が適用された。しかし、認定医・技師と同じレベルの人員を配置する必要があり、岡山県での実施は岡山大、川崎医大、倉敷中央の3病院だけだ。

 三島さんの地元・福山市には実施施設があるが、主治医が「スタッフが充実し、あらゆる治療に対応できる」と岡山大病院を勧めた。「装置はあっても、専門家が足りないため、自前で治療せず大学病院などを紹介する病院もある」(医療関係者)という。

 岡山大病院で昨年、この治療を受けた肺がん患者14人中、11人は他の病院の紹介。うち6人は広島や香川、兵庫など県外からだった。

  ~

 こうした地域格差の解消などを目指し、文部科学省がスタートさせたのが「がんプロフェッショナル養成プラン」。全国の大学院が18グループで専門的な医師、看護師などの教育を進める。

 岡山大大学院は「中国・四国がんコンソーシアム」を構成する6県7大学と連携。08年度から薬物療法や外科など7コースで37人が学んでいる。しかし、放射線治療医コース(4年制)の入学は初年度の1人のみ。放射線は手術、抗がん剤と並ぶがん治療の柱とされながら、志す人材不足が顕著だ。

 「今は治療施設をある程度絞り、少ないスタッフや装置を集約するのが効率的」と話す金澤教授。しかし現状が、「どこでも質の高い医療が受けられることを目指すがん対策基本法に逆行する」ことに頭を痛めている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月06日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ