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第2回岡山県民公開医療シンポ 命の安全保障 関心を

地域医療の課題をめぐり意見を交わしたパネルディスカッション

本田宏・埼玉県済生会栗橋病院副院長

 地域医療の在り方を探る第2回岡山県民公開医療シンポジウム(県病院協会、県医師会主催、山陽新聞社など後援)が2月27日、岡山市内で開かれた。病院関係者、市民約400人が医療崩壊や医師不足をテーマにした基調講演と、3人のパネリストのパネルディスカッションを通じ、医療を取り巻く課題を考えた。要旨を紹介する。


基調講演 「医療崩壊」 本田宏・埼玉県済生会栗橋病院副院長

医師 不足し過重労働

 国が長年続けてきた医療費抑制策で、医師不足などさまざまなひずみが生じている。だが、国民には正しい情報が伝わっていない。今、医療現場で何が起こっているのか。真実を発信して、医療崩壊を阻止したい。

 1997年、政府は医療制度改革を打ち出した。将来、高齢化が進むと医療費がかさんでしまう、ならば改革によって抑制しようというのが主な目的だった。

 その後も小泉改革などで昨年までの約30年間、医療費はほとんど上がっていない。むしろ下がっている。

 その仕組みとして、国は診療報酬を低く抑えてきた。国際的に見ても日本の医療費は非常に安い。例えば、日本で30万~50万円の出産費用が米国だと約400万円もかかる。

 診療報酬が低いと病院収入は減り、赤字で閉鎖せざるを得ない病院も出てきている。医療は医師だけでなく周囲で働く人も大勢必要だが、赤字だと十分な人材が確保できない。当然、医療事故の危険性は高まる。

 それなのに、国民は医療事故があると「医者は何をやっているんだ」と怒る。国際的に高い技術を誇る日本の医療。頑張って支えている医師は、そんな指摘に心が折れ現場を去る。正しい情報が伝わらないのは悲劇だ。

 近年、医師不足がクローズアップされている。医師は都会に集まり、地方に少ないという偏在が指摘されているが、果たしてそうなのか。

 2008年、東京都立墨東病院など7カ所の医療機関に妊婦が救急受け入れを断られ、出産後に亡くなったことがあった。墨東病院は東京都のER(救急外来)の役割を持つ病院といっていいが、産科常勤医は4人しかおらず、アルバイトを雇っても、この体制で毎晩の当直は絶対に無理。首都でも医師不足なのに、地方で医師が余っているわけがない。要は、絶対的に数が不足しているのだ。

 なぜ少ないのか。世界各国は医療の進歩に合わせ医師を増やしたのに、日本は逆に医学部の定員を減らしてきたから。医師を減らせば医療費も上がらないという考えがあったのだろう。経済協力開発機構(OECD)加盟国と比べても、日本の医師数は非常に少ない。

 その結果、現役医師の労働時間は週60時間を超え、80歳以上の医師も働いている状況。日本はこれから未曾有の高齢化を迎え医療需要は爆発的に増えるのに、医師を増やす必要がないという論理は間違っている。

 医師は一人で何役もこなさなければならず過重労働は進む。医療事故があれば刑事責任まで問われる。あまりにもやり方がまずくないだろうか。

 このままだと日本の医療は崩壊する。だからこそ、声を上げる必要がある。医療は命の安全保障。国民全員が医療に関心を持ち、医療者とともに発言しよう。誰かが言わないと、状況は変わらない。


 ほんだ・ひろし 弘前大医学部卒。東京女子医大助教授などを経て、2001年から現職。NPO法人医療制度研究会副理事長も務める。福島県出身。55歳。


パネルディスカッション

石垣正夫・新見市長 高度医療なく患者困る

 新見市は、人口あたりの医師数が岡山県平均の4割程度。軽症の1次、2次医療は地元で受診できるが、高度な3次医療は遠く離れた県南などの病院に行かざるを得ない。患者は非常に困っている。

 市も施策を講じている。医師不足が問題となっている産婦人科では、2003年開設の国際貢献大学校メディカルクリニック(同市哲多町本郷)に補助。市外の妊婦も含め、年間約240人の子どもが産まれている。

 県南の病院にかかれば交通費だけでも相当な負担となるため、昨年4月から医療費の無料化対象を中学3年生まで広げた。一時なくなった救急告示病院は県などにお願いを重ねた結果、08年12月から復活している。

 中四国で唯一、運航されている川崎医大病院のドクターヘリは、重篤患者を短時間で県南の病院に運ぶことができて有意義だ。夜間運航も検討されているが、増大する経費に対応するには、県と県内全市町村を挙げた取り組みが必要だろう。

 遠隔医療にも注目している。市が各戸につないだ光ファイバーを活用して、家庭のテレビと病院を結ぶ実証実験を進めている。市民の安心・安全を支える医療体制づくりを目指し、今後も県や医療関係者と努力したい。


徳田直彦・津山中央病院長 「四位一体」で再生必要

 地域医療の再生に特効薬はない。医療機関、地域住民、行政、メディアの「四位一体」の使命感と覚悟を持った取り組みで、慢性的な疲弊状態から立ち直らせたい。危機に直面した今は、たくましく変わることができるチャンスでもある。

 津山中央病院は岡山県北で唯一、500床以上のベッドと救命救急センターを持つ。救急外来は年間3万人以上が受診するし、救急車は4千台以上来る。県北の患者が集中し、医師は多忙を極めている。

 国は医師の増員を図るべきだ。自治体は医療機関を安全のためのインフラと認識し、医師が快適に働ける環境を整えてほしい。現場に泊まり込み、住民の安全を最優先した政策を考えてほしい。

 患者は安価で一流のサービスを求める。だが、安全とサービスを高めるには人、カネ、モノが要る。医療者がひたすら努力してもギャップを埋めることはできないし、そうした努力が評価されてもいない。メディアは正しい情報を伝えてほしい。

 医療人は、安全と信頼関係を第一にしながら、医療が社会の共通資本であると訴える必要がある。主張すべき事を胸を張って主張しよう。


足立智和・丹波新聞(兵庫県丹波市)記者 市民が小児科守る活動

 2007年春、兵庫県立柏原病院(丹波市)の小児科医2人のうち1人が院長に就任し、もう1人は多忙を理由に辞意を表明した。小児科が閉鎖されれば、産婦人科の出産取り扱いも休止になる恐れがある。市民に衝撃が走った。

 私が呼び掛けて開いた市民座談会で、寝ずに働く小児科医の過酷な勤務ぶりを母親たちが知った。「現場の悲鳴を市民に伝えよう」「医療を壊した責任は市民にもある」。出席者を中心に「県立柏原病院の小児科を守る会」が発足した。

 約5万5千人分の署名を集めても、病院を運営する県は「医師は送れない」と言う。ならば医師が働きやすい環境をつくろうと、不要不急の受診を控える運動に乗り出した。バザーなどで資金を 捻出 ( ねんしゅつ ) し啓発グッズを広めた。医師に感謝を伝える「ありがとうポスト」も設置した。

 活動が実を結び、小児科の時間外受診は半減した。こうした取り組みが評価され、大学からも医師が派遣された。現在の小児科医は5人。労働環境は改善されている。

 他の市民グループも病院を支える活動を始め、大勢が病院にかかわるようになった。医療は「限りある公共財」。みんなで大切にしよう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月22日 更新)

タグ: がん医療・話題

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