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「患者にやさしい医師」五つの条件 2006正月特集 江草安彦旭川荘理事長 満足できる医療へ

江草安彦旭川荘理事長

 一 困った時、いつでも診察、往診してくれる

 二 患者の話をよく聞いてくれる

 三 病気の説明をし、患者の意思を尊重する

 四 セカンドオピニオンを受け入れる

 五 幅広いネットワークを持つ



 ―「困った時、いつでも診察、往診してくれる」これは簡単なようで難しい。

 江草 そうなんです。お医者さんも忙しいし、自分の生活がある。疲れている時もある。しかし、地域で暮らす人たちが体に不調を感じると不安が募るし、大きな病気の予兆かもしれない。患者も遠慮しながら電話するわけですから、それに応じることは医師の使命でしょう。何より、地域住民との信頼関係につながる。旭川荘を創設した川崎祐宣先生が創立された川崎病院は「年中無休昼夜診療」でした。あなたのために尽くしますよという姿勢が伝わっていた。今、盛んに言われている患者本位とはここから始まるのではないでしょうか。

 ―「患者の話をよく聞いてくれる」これは実感としてわかります。患者の大半は自分の症状がうまく話せなかったという体験を持っています。ゆっくり聞いてほしいんですが…。

 江草 体の調子が悪い上に心に不安いっぱいで来ているのですから、まず患者の訴えをよく聞く。これが医療の基本でしょう。うまく聞けば治療も適切に行え、早く治せる。良医の育成は聞き上手から始めるべきでしょう。実際、医科大学では臨床指導をこうした視点で行っています。ただ、現実にはなかなか難しい。ここが問題です。

 ―先生はどういう指導を受けましたか。

 江草 私が医学生だった時、内科の山岡憲二教授(岡山大)は黒板に医という字を書かれ、その上下左右に慰、威、意、衣を書かれ、医師の在り方を説かれた。まずは患者を慰める。威はえらそうにするのでなく、ヒューマン・ディグニティー、人として尊厳を持つ。意は人の気持ちを良く知る。衣は身だしなみをきちんとする。病んでる人を慰める優しさを持ち、人間的に立派で、患者との意思疎通をよくし、身だしなみをきちんとして信頼されるようにしなさいと言われた。よく聞くことは意思疎通の基本です。

 ―小児科の恩師浜本英次教授はどうでしたか。

 江草 医療が実践できる小児科医、これは当然です。このほかに子供を育てるために教育の専門家、人生を考える思想家、子供の権利を擁護できる法律家の面も必要だと言われた。高邁(こうまい)な小児科医像をわれわれに教えられた。感心します。その一方、朝会うと「顔は洗ったか」と言われる。もちろん洗っていることはわかっておられるが、しゃきっとした態度でいなさいということなんです。ズボンの折り目に目をやられ、ネクタイが派手だとダメ。「医者に見えない」。患者の信頼につながる身だしなみ、言動を求められた。人間教育でしょうね。

 ―三番目は「説明と患者の意思の尊重」です。

 江草 治療は生命に関わる行為で時には体にメスを入れ、傷つけるのですから十分な説明が必要です。従来よくあった医者まかせでなく、医師が患者の権利を尊重する姿勢を持つことです。

 ―その延長線上にあるのがセカンドオピニオンの導入ですね。

 江草 医師と患者の間には医学知識など医療の専門領域で大きな隔たりがあるし、患者は治療を受けるいわば受け身でもあり、立場上細かい病状や治療方針は聞きにくい。しかし、知っておきたいし、自分が受ける治療法について適切で安全な方法か、第三者に確認してもらいたい気持ちもあるだろう。その溝を埋めるのが主治医以外の医師に意見を聞くセカンドオピニオンの仕組みです。手術や治療の正当性を確認し安心して治療を受ける仕組みと前向きにとらえ、「どうぞ遠慮なく聞いてください」と第三者の医師を推薦する姿勢が必要だ。そうしたことが一層の信頼につながる。

 ―「幅広いネットワークを持つ」これは具体的に言うと。

 江草 自分の専門領域だけでなく、隣接領域にも一定の知識を持つ。そうすればより適切な治療ができるでしょう。

 ―ネットワークとは。

 江草 私の五人の子供は当時の国立病院の山内逸郎先生にお願いしました。山内先生はご承知のように新生児医療の名医でしたが、子供の病気には幅広く対応できる小児外科、小児血液、小児内分泌などの専門医を多数育てておられ、産婦人科とも深い連携があった。子供の親としてこれほど安心できることはない。そこで五人の出産から小児期の医療はすべて国立病院でした。医師がこの病気ならこの先生という地域の専門医をよく知り、患者がいざという時には、ただちに紹介するという連携プレーができることが必要です。ネットワークを平素からつくっていれば、患者は助かる。今の医療はかかりつけ医、地域の病院、そして大きな病院と役割分担がはっきり進んでいますから、この連携に血を通わせることが大事なんです。患者にやさしい医師は良医の一面であるが、やはり良医とは患者に満足してもらえる医者のことでしょう。そのためには患者の病状(急性、慢性)年齢(小児、壮年、老年)によっても良医の具体的姿は変わる。高齢社会では医療と福祉の連携も見逃すことはできません。


私の意見

頼りになるかかりつけ医

岡山市連合婦人会会長 佐藤久子さん(72)(岡山市芳賀)


 私には15年以上の付き合いになる、かかりつけのお医者さんがおり、身体面だけでなくメンタル面の相談にも乗ってもらっている。主人もお世話になっており「家族医」という感覚だ。主婦は自身の病気以外でも、子どもや老父母の付き添いなどで病院に行く機会が多い。高度で専門的な医療はもちろん必要だが、私たちが最初に接するのはこうした“町のお医者さん”。何でも話せる頼りになる存在であってほしいし、医学関係者は地域医療を担う医師の育成に力を入れてほしい。


小児医療体制充実して

岡山県愛育委員連合会会長 藤本貴子さん(72)(津山市院庄)


 愛育委員としていろいろな親と接していると、不安だらけで子育てしている人がいかに多いかが分かる。特に子どもが急病の際、病院探しに苦労するケースは意外なほど多い。都市部だけでなく地方でも、いつでも診てもらえる小児医療体制を整えてほしい。ただ親の側も努力が必要。子どもの誕生前から、どこの病院がいつ開いているかを調べたり、最低限の処置法を勉強したりはできるはず。行政などと連携し、そういう学びの場を手助けすることも、医療関係者に望みたい。


地方の医師不足解消を

岡山県老人クラブ連合会会長 吉房信夫さん(76)(赤磐市沢原)


 私も背中や首に持病があり、岡山市などの病院に通っている。一番こたえるのは通院に時間がかかること。息子に送り迎えしてもらっているが、一日仕事になる。田舎に住むお年寄りは皆、同じ悩みを抱えていると思う。地元の病院は医師が足りず診察日が週1度しかない科もある。眼科や耳鼻科も近辺には少なく、目や耳が弱っても遠くの病院に出掛けるのがおっくうで、症状が進むケースもあるようだ。何とか医師をやり繰りし、地方でも診療科、診察日を充実させてほしい。


                 ◇


 情報社会はインターネットで医療情報が入手しやすくなり、患者と医師の関係も変わりつつある。地域で暮らす人々がどういう医師を望んでいるのか―小児科医で川崎医療福祉大名誉学長の江草安彦旭川荘理事長に「患者にやさしい医師」五つの条件を聞いた。

 一方、病院の在り方も問われている。地域医療の中でどういう機能を持ち、なにを地域住民に提供するのか。情報公開など患者本位の病院が望まれている。元厚労省健康局長で日本医療機能評価機構副理事長の高原亮治上智大教授に「頼りになる病院」五つの条件を聞いた。

 (聞き手・阪本文雄山陽新聞メディア局次長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年01月01日 更新)

タグ: 医療・話題

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