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病院との連携 どう構築 15年度開院目指す岡山総合医療センター

 岡山市が岡山大の協力を得て岡山操車場跡地(同市北区北長瀬地区)に整備する岡山総合医療センター(仮称)。基本計画素案では、「ER(救急外来)」と「保健・医療・福祉連携機能」を二本柱に2015年度の開院目標が示された。先行して救急分野の医師研修が行われているが、ER患者を他機関に引き継ぐといったネットワーク構築はこれから。各医療機関が独自性を打ち出して経営強化を図ろうとしており、調整には課題が多い。

 ERは365日24時間体制で、年3万人程度の救急患者を想定する。市民病院(同天瀬)の09年度約1万4400人の2倍強。救急専門医が初期診療し、必要に応じて他病院を含めた専門診療部門、かかりつけ医に引き継ぐコーディネート機能も備える。

 救急専門医の育成も目指し、今春、市による寄付講座「地域医療学講座」が岡山大に設置。市民病院に4月開設の救急センターで、市場晋吾教授(同センター長)と講師、助教の救急専門医3人が、日曜を除く午前8時から翌午前0時を3交代で取り組む。他の時間は市民病院の当直医が対応している。

 岡山大の研修医が市民病院での救急研修も始めている。本年度は20人が1カ月半ずつ、市場教授らの指導で風邪や腹痛、発熱、打撲などの患者を診る。市場教授は「大学病院ではできにくい一般的な疾患の診療能力を身に付ける場にもなる」と話す。

 救急車による搬送は、同センターを設けた4月から11月末までの月平均で330人。09年度の同276人より2割増えた。

公的機関の役割

 市によると、市内主要7病院の救急患者推計は01年度約12万人、06年度には約16万人と約3割増。うち約9割が軽症患者とみられ、「総合病院の果たすべき高度医療に支障を来しかねない」というのがERに重点を置くきっかけとなっている。

 岡山赤十字病院(北区青江)の忠田正樹院長は「救急当直の医師や看護師は困惑やいらだち、無力感を感じることもある」とし、市病院事業管理者で市民病院の松本健五院長は「高齢化の進展で救急患者はさらに増える」と見通す。

 一方、市内のある総合病院関係者は「市内で救急患者のたらい回しは基本的にないと認識しており、ERを核とする必要性があるのか」と疑問視する。

 岡山県医師会の井戸俊夫会長も「3交代のERは、人件費やスタッフの確保など人的な体制整備にかなりの費用がかかり、採算を取るのは難しい」と指摘し、「比較的軽症の1次救急であれば、診療所の連携ができるのならば夜間の輪番制で対応するのも一つの考え方」とする。

 これに対し松本・市病院事業管理者は、不採算部門とされる救急部門を公的病院の役割として担い、これをカバーするためにも「18診療科を備えた総合病院体制が必要」と説明する。

広がる選択肢 

 ERと並ぶ柱が保健・医療・福祉の連携機能。2月の基本構想で「保健・医療・福祉連携ネットワークセンター(仮称)」設置の考えが示された。予防から診療、回復、介護までを支援する組織で、素案で輪郭が見えてきた。

 「どこに何を相談していいのか分からない市民の受け皿にしたい」と市企画局の皆木国義次長。ネットワークセンターは、365日体制で案内人(コンシェルジュ)を置き、市民や保健・医療・福祉関係者の相談に応じる。

 病気や介護予防に関する情報、相談者のニーズに見合う医療・福祉サービスの施設情報も提供する。支えるための情報収集組織も設けるとしている。

 既に主な医療機関は、地域医療と連携する機能を持ち、患者や家族の相談に応じたり、回復期リハビリ病院など次の段階の施設に引き継ぐ役割を担っている。だが、「基本的にネットワークは地元の協力施設との間が中心。相談対応も受診者が対象」と岡山労災病院(同南区築港緑町)の清水信義院長。

 受診者に限らず、広く市民の相談に応じる機能について、岡山県医療推進課は「各病院のネットワークの垣根を越えた情報提供ができれば、患者や家族の選択肢が広がる」と評価。井戸県医師会長は「複雑になっている医療や福祉の制度を分かりやすく市民に説明することは必要だ」とする。

 幅広い分野と一定の専門知識が求められる案内人の育成、情報収集体制をどう築くのかが課題だ。

利害乗り越え 

 高谷茂男市長は11月定例会の所信表明で「地域医療ネットワークの確立に貢献し、市民の安全と安心を支える新たな医療機関を目指す」と強調した。

 「地域医療ネットワーク確立」は、基本計画素案の中で、岡山総合医療センターの“基本方向”としている。

 中四国地方の総合福祉の拠点都市を目指し、ERの患者を振り分けるだけでなく、幅広い診療分野で連携する「調整機能」を担おうとしている。

 岡山大病院の森田潔院長は「県南部には優れた医療機関が多く、ある程度、得意分野のすみ分けができている。各医療機関が特徴を生かし、市民に漏れなくいい医療を提供できるシステムをつくりたい」とし、「出身者が各病院にいる人のつながりに加え、ブランド・信用力がある岡山大でなければ調整は難しい」と実現に意欲を見せる。

 岡山市医師会の丹治康浩会長は「各病院は退院後の患者の受け入れ先不足に悩んでいる。病院の垣根を越え調整する仕組みも整備してほしい」と求める。

 しかし、ネットワークは病院間の利害が絡む。本年度中とされる基本計画決定後、本格化する協議の行方が注目される。

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岡山総合医療センター

 11月中旬に出された基本計画素案では、8階建て延べ約3万3千平方メートル。2011年度に設計、12年度中に着工し15年度開院を目指す。総事業費は計156億円。

 1階にER、2階は外来、3階に手術室、5~8階に病棟などを配置する。市民病院の機能を引き継ぎ18診療科。病床は新たに備えるHCU(高度治療室)4床、SCU(脳卒中集中治療室)3床も含め400床とする。災害医療や感染症にも対応する。

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岡山市、13年目の単年度黒字予想

 岡山総合医療センターは「救急や感染症など不採算といわれる医療」(市企画局)を抱えながら、基本計画素案では、安定経営に向けて独立行政法人も検討し、開院から13年目に単年度黒字となる見通しだ。

 市が2006年に設けた市民病院のあり方を検討する委員会で、同病院は公的役割を果たす医療を担い、市民負担を抑える方向が打ち出された。これが同センター構想につながった。

 同病院の累積赤字は2009年度55億6800万円。人件費比率(09年度決算)は約54%と民間より高い。素案では人件費比率を「持続可能な経営の目安」(市企画局)とされる51%台に抑制。経営形態を現行の地方公営企業から、地方独立行政法人化することを含め検討する。

 その利点を市企画局の皆木国義次長は「公務員の枠組みを外れ、採用や給与体系で自由度が増したり、複数年度の会計で物品契約できるため、コスト削減にもつながる」とする。

 市の一般会計からセンターへの医療部門の繰り入れは、救急や感染症など公的な医療に限定する。繰入額は市民病院への年11億円(過去5年平均)と比べ大幅に圧縮。医療機器が減価償却した後の6年目から約6億2千万円に抑える。

 救急患者の倍増や看護体制の充実による入院収益の増加なども見込んでおり、今月7日の11月定例会本会議で、市企画局の高次秀明局長は「現行の医療制度が前提なら持続的経営は可能と考えている」と答えた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年12月12日 更新)

タグ: 福祉医療・話題感染症

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