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救急業務マニュアル作り大詰め 岡山県内 患者搬送分散目指す 「現場は混乱」の声も

119番を受ける岡山市消防局の消防情報通信センター。救急患者の搬送先の選定も行う

 東京で2008年に複数の病院に受け入れを断られた妊婦が死亡した問題などを受け、国が都道府県ごとに策定を義務付けた救急業務のマニュアル作りが、岡山県内では本年度中の運用を目指し大詰めを迎えた。症状や緊急度、距離に応じて搬送先を決めるシステム。一部の医療機関に集中しがちな患者を分散、安定した救急医療体制の構築が期待される一方、「患者の要望に沿わず混乱を招くのでは」といった懸念も抱えている。

 救急患者を受け入れる救急告示病院が少ない県北部。津山市、鏡野町など1市5町を管轄する津山圏域消防組合の救急搬送は年間約7千件に上り、その半数以上が救命救急センターのある津山中央病院(津山市川崎)に搬送される。まさに一極集中だ。

 同病院は、救命救急センターに指定され、重症患者を24時間受け入れている地域の中核病院。しかし、比較的軽症な患者が「かかりつけ医がいる」などの理由から救急搬送を希望したり、自ら来院することがあり、「医師は手いっぱいで余裕はない」(同病院)という。

 同消防組合の宮崎淳一警防課参事は「救命センターは『最後のとりで』。ルールを活用することで、特定の病院以外への搬送がスムーズになれば、地域全体の医療の向上にもつながる」と期待する。

リストを基に

 救急業務のマニュアル作りは、救急搬送の円滑化を目的に09年10月の改正消防法で義務化された。

 県はそれに先駆けて同年6月、医療、消防、行政関係者でつくる「県メディカルコントロール協議会ワーキンググループ(WG)」を発足。県内257病院・診療所と鳥取、兵庫県10病院へアンケートし、緊急性の高い心筋梗塞、脳卒中、重い外傷、心肺停止について受け入れ可能な疾病を明確にした医療機関のリスト作成を進めている。

 運用が始まれば、救急隊員は現場で対象疾患かどうかを判断し、リストを基に受け入れ可能病院をチェック。距離に応じて搬送先を決める。

大切な情報共有

 これまでのところ、県内の救急搬送業務はおおむね円滑に行われている。ただ「ルールが、かえって現場に混乱を招く」との声もあるように、県南の消防本部は「マニュアル化で医療機関が柔軟に対応してくれない可能性がある」と指摘する。

 実際に、患者はかかりつけ医がいたり、専門医の多い大規模病院への搬送を希望することが多く、マニュアル通りの搬送は患者とのトラブルにつながりかねないというのだ。さらに、医療機関側がリスト掲載を負担に感じたり、受け入れを断った際の問題を恐れて掲載自体を拒むケースも見受けられる。

 新しい救急業務の運用で、患者の“たらい回し”による悲劇は防げるのか―。同協議会WG委員の井戸俊夫県医師会長は「どこの病院が、どの疾患に対応可能か、基本情報を共有することが大切。関係者が信頼関係の中で、補完し合う体制をつくる必要がある」と強調。県消防保安課は「運用状況に応じてルールの見直しや対象となる疾病リストを拡大していきたい」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年03月10日 更新)

タグ: 医療・話題

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