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岡山大病院、膵島移植へ準備 糖尿病患者 インスリン注射から離脱

野口洋文客員研究員

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学教室は、血糖値を調整するインスリンを分泌している膵島(すいとう)細胞を膵臓(すいぞう)から抽出し、小児に発症が多い1型糖尿病患者らの肝臓に注入する「膵島移植」実施へ準備を進めている。カテーテル手術で身体的負担は少なく、肝臓内で細胞が機能すればインスリン注射療法から離脱でき、患者に大きな福音となる。日本膵・膵島移植研究会に岡山大病院の実施施設認定を申請する予定で、認められれば中四国地方では初となる。

 膵島移植は脳死、心停止ドナー(臓器提供者)の膵臓から膵島細胞を約6時間かけて分離・抽出後、患者の肝臓血管中にカテーテルで50万個(5~7CC)を注入する。膵臓移植は脳死ドナーから提供された臓器の状態が良好でないとできないが、膵島細胞は医学的理由で移植を断念した臓器からも抽出可能という。

 組織に分類される膵島の斡旋(あっせん)は、日本臓器移植ネットワーク(東京)ではなく、日本組織移植学会がつくる西日本組織移植ネットワーク(大阪府吹田市)が担当する。岡山大大学院の藤原俊義消化器外科学教授が24日の同大倫理委員会に、米ハーバード大や京都大などで経験を積んだ野口洋文・消化器外科学客員研究員を中心メンバーに移植実施を申請中。承認されれば日本膵・膵島移植研究会に実施施設認定を申請し、認定後から患者登録を始める。

 野口客員研究員によると、1型糖尿病患者は全国で10万人前後、膵島移植の登録患者は100人以上といい、「ドナーやご家族の尊い意思を無駄にしない移植医療を、できる限り早く根付かせたい」としている。

 国内の実施施設は京都大や東北大など6カ所。岡山大病院は現在、心臓と肺、肝臓、腎臓、小腸の移植が可能で、膵島細胞という新たな領域が加わることで、ほとんどの臓器に対する移植が実現する。

 膵島移植 1970年代に米国で始まり、2000年までにカナダのアルバータ大が確立したプロトコール(手順、条件など)で成績が向上。国内では04年に京都大で初めて行われた。抽出酵素の安全面から07年3月に中止されたが、新酵素の実用化で今年4月、体制が整った。重い糖尿病患者がインスリン注射療法から離脱するには、正常に働く膵島細胞が30万個以上必要だが、1回の手術で注入する50万個のうち機能する細胞は半分程度になるため、2回以上移植する場合が多い。これまでの国内移植は34件。膵島細胞を肝臓に移植するため、膵臓の全摘患者にも実施できる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年05月17日 更新)

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