岡山大病院、進む再生医療研究 移植に次ぐ“看板”に
体の組織や臓器に成長する能力がある人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究が脚光を浴びる中、岡山大病院(岡山市北区鹿田町)でも、さまざまな「再生医療」に関する研究が進められている。臨床研究が始まった小児の心筋を強化する治療法を筆頭に、iPS細胞による膵臓(すいぞう)機能の再生…。移植では避けられない拒絶反応が起こりにくいとされる“夢の治療法”の実現に期待が集まっている。
「治療後、見違えるように元気になって笑顔も見せるように。本当に感謝している」
岡山大病院で5月に心筋を強化する治療を受けた男児(1)=四国地方在住=の父親(35)は喜ぶ。
男児は生まれた日に、左心室などがほとんどない「左心低形成症候群」と診断された。地元の病院で手術を受けたが、深刻な症状は改善されなかった。
同症候群の手術では世界的に名が通る岡山大病院の佐野俊二・心臓血管外科教授を頼り、4月に転院。手術後に弱った心筋の再生が必要として、佐野教授から同病院新医療研究開発センターの王英正教授を紹介された。「世界で2人目の治療。迷いもあったが、先生方の丁寧な説明と自信に触れて安心し、決断した」と父親は振り返る。
世界に先駆け
男児が受けた治療は佐野、王教授らのグループが世界に先駆けて取り組む「再生医療」。心臓を動かす心筋に成長する幹細胞を活用し、動きの悪いポンプ機能を強化する。
血流を改善する手術をする際に100ミリグラムの心臓組織を採取して幹細胞を抽出する。10日間の培養で増殖させ、体重1キロ当たり30万個の幹細胞(2〜3CC)を冠動脈中にカテーテルで注入して「自家移植」。3カ月後に心筋重量や心臓のポンプ機能などを評価する。
世界初の治療は4月、中国地方在住の女児(1)に行われた。2例目の男児を含め、いずれも心筋重量は15%以上増加、ポンプ機能も著しく改善したという。佐野教授は「2人とも経過は良好。副作用もなく、われわれの治療が症状改善につながっている可能性は高い」と説明する。
治療した患者はこれまでに6人。11月上旬に生後5カ月で自家移植した男児=中国地方在住=の母親は「入院中に知り合ったお子さんが、この治療で元気になった。息子にも効果があってほしい」と期待する。
次々と着手
京都大の山中伸弥教授が2006年にマウスの皮膚から作製し、世界を驚かせた「iPS細胞」。研究は国内外で進められており、岡山大も例外ではない。
大学院の野口洋文・消化器外科学客員研究員は糖尿病治療に向け、血糖値を調整するインスリンを分泌する膵島(すいとう)細胞をつくり出す研究に取り組む。マウスからiPS細胞を作り、膵島細胞への効率的な分化法を探索中だ。皮膚科学の青山裕美准教授は全身の皮膚がひび割れ、水疱(すいほう)ができる皮膚病治療に向けた研究を進める。
王教授も左心低形成症候群をはじめ、先天性心疾患患者の細胞からiPS細胞を作り、病気の原因とともに心筋細胞への分化法を探っている。
再生医療を移植に次ぐ看板に―。岡山大病院は昨年、新医療研究開発センターに再生医療部門を新設。実用化への“土台”となる、安全性や治療効果を調べる臨床研究の円滑な実施に向け、国への申請作業の支援などに取り組む。
同部門主任研究者の王教授は「診療科を超えた連携を強化し、再生医療の拠点になれるよう努めたい」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。
「治療後、見違えるように元気になって笑顔も見せるように。本当に感謝している」
岡山大病院で5月に心筋を強化する治療を受けた男児(1)=四国地方在住=の父親(35)は喜ぶ。
男児は生まれた日に、左心室などがほとんどない「左心低形成症候群」と診断された。地元の病院で手術を受けたが、深刻な症状は改善されなかった。
同症候群の手術では世界的に名が通る岡山大病院の佐野俊二・心臓血管外科教授を頼り、4月に転院。手術後に弱った心筋の再生が必要として、佐野教授から同病院新医療研究開発センターの王英正教授を紹介された。「世界で2人目の治療。迷いもあったが、先生方の丁寧な説明と自信に触れて安心し、決断した」と父親は振り返る。
世界に先駆け
男児が受けた治療は佐野、王教授らのグループが世界に先駆けて取り組む「再生医療」。心臓を動かす心筋に成長する幹細胞を活用し、動きの悪いポンプ機能を強化する。
血流を改善する手術をする際に100ミリグラムの心臓組織を採取して幹細胞を抽出する。10日間の培養で増殖させ、体重1キロ当たり30万個の幹細胞(2〜3CC)を冠動脈中にカテーテルで注入して「自家移植」。3カ月後に心筋重量や心臓のポンプ機能などを評価する。
世界初の治療は4月、中国地方在住の女児(1)に行われた。2例目の男児を含め、いずれも心筋重量は15%以上増加、ポンプ機能も著しく改善したという。佐野教授は「2人とも経過は良好。副作用もなく、われわれの治療が症状改善につながっている可能性は高い」と説明する。
治療した患者はこれまでに6人。11月上旬に生後5カ月で自家移植した男児=中国地方在住=の母親は「入院中に知り合ったお子さんが、この治療で元気になった。息子にも効果があってほしい」と期待する。
次々と着手
京都大の山中伸弥教授が2006年にマウスの皮膚から作製し、世界を驚かせた「iPS細胞」。研究は国内外で進められており、岡山大も例外ではない。
大学院の野口洋文・消化器外科学客員研究員は糖尿病治療に向け、血糖値を調整するインスリンを分泌する膵島(すいとう)細胞をつくり出す研究に取り組む。マウスからiPS細胞を作り、膵島細胞への効率的な分化法を探索中だ。皮膚科学の青山裕美准教授は全身の皮膚がひび割れ、水疱(すいほう)ができる皮膚病治療に向けた研究を進める。
王教授も左心低形成症候群をはじめ、先天性心疾患患者の細胞からiPS細胞を作り、病気の原因とともに心筋細胞への分化法を探っている。
再生医療を移植に次ぐ看板に―。岡山大病院は昨年、新医療研究開発センターに再生医療部門を新設。実用化への“土台”となる、安全性や治療効果を調べる臨床研究の円滑な実施に向け、国への申請作業の支援などに取り組む。
同部門主任研究者の王教授は「診療科を超えた連携を強化し、再生医療の拠点になれるよう努めたい」としている。
(2011年12月05日 更新)