文字 

精神疾患、啓発と支援を 岡山県内患者3.6万人

自室で突然不安に襲われることがある。そんな時は「読書で心を落ち着かせる」と言う平川さん

 精神疾患の患者数増加に歯止めがかからない。国はがん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の四大疾病に、精神疾患を加えて「五大疾病」とし、重点的な対策に取り組む方針。患者数が四大疾病を大幅に上回っていることが背景にある。岡山県内でも約3万6000人(08年推計)が病気に苦しみ、周囲の偏見に悩まされている。患者を取り巻く厳しい現状を探った。

 「体が動かせないほど気持ちが暗くなる。生きる価値がないと感じた」

 岡山県西部に住む看護師平川明美さん(48)=仮名=は病院に勤務していた38歳のとき、うつ病と診断された。

 職場での人間関係のもつれから憂うつな気分が続いていた。ある日、患者とささいなことで言い合いに。興奮して、泣きながら怒鳴りつけている自分がいた。その時、「『プチン』と何かが切れる音がした」。異常を感じて受診、心の病気が判明した。

 以後、自分だけが世間から取り残されたような不安感に襲われる毎日が続く。食事もできず、体重は38キロまで減少。入退院を繰り返し、4年前にはいったん仕事を辞めた。病気や生活苦から自殺を考えたこともある。

 復職した現在は週2日、半日勤務を続ける。病状は安定しているが、1日3回計30錠の薬の服用が欠かせない。収入は5万円弱の月収と年間約60万円の障害厚生年金のみ。貯金を切り崩しながらの1人暮らしで、「前向きに生きるしかないが、不安は尽きない」と話す。

糖尿病上回る 

 厚生労働省が2008年に実施した調査によると、全国の精神疾患患者数は1999年より120万人増え、推計で約323万人。国民100人に2、3人いることになり、四大疾病で最も多い糖尿病(約237万人)を大幅に上回った。

 精神疾患のうち最も多いのがうつ病。職場のストレス増大などを背景に、99年(約44万1千人)の2倍以上の約104万人に達した。統合失調症(約79万5千人)、認知症(約38万3千人)と続く。

 岡山県内の精神疾患患者(08年)は前回(05年)調査より減ったものの、99年から5千人増の約3万6千人と、糖尿病と並びトップになった。

 患者団体「県精神障がい者団体連合会」の関常夫会長は自らの経験に基づき、「リストラにあって無収入となったり、偏見を恐れて周囲に悩みを打ち明けることが難しいなど、患者の悩みは深く、多岐にわたる」と明かす。

地域連携を強化 

 国による精神疾患の「五大疾病」化を受け、都道府県は今後、地域医療の基本方針となる「医療計画」に関係医療機関、福祉サービス事業所間の連携強化を盛り込んでいく。岡山県は既に現行の第6次保健医療計画(11〜15年度)に基づき、訪問診療や24時間電話相談、調子を崩したときに緊急避難的に宿泊できるホステル事業などにより、患者の地域生活支援を進めているが、関会長は「精神科救急の拡充などさらに支援策を広げてほしい」と期待する。

 医療体制の整備とともに、患者が地域で暮らしていくために欠かせないのが、「頑張れないのは本人の性格のせい」「何をするか分からない」といった偏見の解消だ。この偏見のため住宅確保や就労がままならない現状もある。

 県精神科病院協会の堀井茂男会長は「精神疾患は誰もが関わりうる病気で、決して特別なものではないという認識を広めることが必要。企業や学校、地域への知識啓発を一層進め、社会全体で患者を受け入れる体制を築くべき」と訴える。

 家族に対する支援の重要性も指摘されている。県精神障害者家族会連合会の鵜川克己理事長は「最も近くで患者を支える家族の精神的な負担は大きい。隣近所に対し、家族に患者がいることを打ち明けられる地域づくりを進めて」と望む。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月12日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ