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<解説>肺がん遺伝子治療 有効性示す成果 実用化にはなお時間も

 “体の設計図”となる遺伝子を薬のように体内に注入する遺伝子治療。岡山大が中心となって行った臨床試験で、安全性に加え、腫瘍の増大が止まるなど一定の成果を発表できた意義は大きい。

 遺伝子をがん細胞に送り込むには、ベクター(運び役)が必要で、岡山大は風邪ウイルスの一種「アデノウイルス」を無害化して使用。今回はこのウイルスの安全性確認が最大の目的だった。

 発熱はあったものの想定された範囲内で、患者の腫瘍に対しても効果があった。国内がん抑制遺伝子研究のリーダーの一人、熊本大大学院医学薬学研究部の佐谷秀行教授(腫瘍医学)は「岡山大だけでなく複数の施設で取り組む公正な手法で安全性を確保できた。有効な方法の一つであることを示す結果だ」とする。

 今回の治療は、米国の方法を日本に初めて持ち込んだ。岡山大では肺がん遺伝子治療をきっかけに、前立腺がんのほかウイルスそのものを使った新しいがん治療研究に着手。そうした実績から、先端医療を行う遺伝子・細胞治療センターが全国で初めて設置された。

 現在国内では閉塞(へいそく)性動脈硬化症など約二十の遺伝子治療が行われているが、佐谷教授は「日本における遺伝子治療の象徴的存在」と評価した。

 ただし、世界的に遺伝子治療の著しい成果はまだ少ない。岡山大の研究も実用化にはなお時間が必要だが、新たなステップへ道を開いたといえる。死因トップを占めるがん克服へ社会の期待が増す中、岡山大の今後に注目したい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年04月12日 更新)

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