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ドナールール変更へ働き掛け強化 岡山大病院 中葉移植成功から2週間

ICUで男児を治療する大藤チーフ(右から2人目)ら

 岡山大病院(岡山市北区)肺移植チームが、3歳男児の生体肺中葉移植に世界で初めて成功して15日で2週間。男児は自力で呼吸するなど順調に回復している。小さな子どもと家族に生きる希望を与えた中葉移植だが、親族がドナー(臓器提供者)になれない場合もある。チームは機能低下などから提供が見送られてきた成人の脳死ドナー肺の一部活用を目指し、ルール変更への働き掛けを強める方針だ。

 6日、岡山大病院内のICU(集中治療室)。手術を執刀した大藤剛宏肺移植チーフや集中治療医らが協力、男児の気管から慎重に人工呼吸器を取り外した。

 「よし、頑張れよ」。大藤チーフの言葉が聞こえたのか、男児は苦しそうな様子を見せながらも、自力で呼吸を始めた。2日後には小さな氷を口にしたという。今月中にもICUから一般病棟に移り、通常の生活を送るためのリハビリテーションを始める予定だ。

3年で2人だけ

 移植医療に欠かせない臓器提供は本来、サイズが一致する同年代の脳死ドナーが最適。従来の臓器移植法は15歳未満の脳死臓器提供を禁止していたが、2010年施行の法改正で認められた。

 一方、3年間で現れた小児ドナーはわずか2人だけ。1例は医学的な理由で提供が見送られ、1例は成人に移植された。体の小さな子どもたちが国内で心臓や肺の移植を受けられる可能性は極端に低いのが現状だ。

 中葉移植は、生体移植で通常使用する下葉とは血管や気管支の位置関係が異なるうえ、「(中葉は)移植に向かない」とする米国の論文もあるなど、高いリスクを負っていた。だが「他に方法がない」と、家族や岡山大病院は世界的に成功例がない難しい手術に踏み切った。

 無事成功に、大藤チーフは「手術前は身長90センチの男児には中葉でも大きいかと思ったが、予想以上にすんなりと収まった。ドナーの体格にもよるが、身長が70センチほどまでなら移植可能ではないか」と自信をみせる。

 快挙に対する反響も大きく、肺移植チームの下には、重い病気と闘う幼児らの主治医から問い合わせが相次いでいるという。

「男児救え喜び」

 ただ、生体移植は血液型などが一致する健康な親族しかドナーになることができない。このため、中葉移植が不可能な場合も十分にあり得る。

 より多くの子どもたちを救うため、大藤チーフらは以前から「医学的な理由」で提供が見送られてきた成人の脳死ドナーの肺に着目。機能が低下していない肺の一部を再分配して移植する案を関連学会を通じて厚生労働省へ提案していた。

 中葉移植の成功を受け、国は近く再分配を含めた新しいルールづくりの検討を始める予定だ。

 大藤チーフは「今回、男児を救えたことはもちろん大きな喜びだが、肺移植医療が発展していくきっかけにもなった。厳しい状況の中、決断してくれたご家族に敬意を表したい」と話している。

ズーム

 生体肺中葉移植 肺は表面の深い切れ込みで区分され、右肺は上葉、中葉、下葉が、左肺には上葉、下葉がある。生体肺移植は通常、肺活量が最も多い下葉を使うが、身体の小さな乳幼児にはサイズが大きすぎて手術できない。岡山大病院は1日、最もサイズが小さい中葉を用いた「生体肺中葉移植」を実施。技術的にも難しく、世界の報告例は米国の1例(1992年)で、失敗に終わっていた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月15日 更新)

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