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在宅ケア担い手育成を プライマリ・ケア連合学会の松下大会長に聞く

患者の話を詳しく聞きながら診察する奈義ファミリークリニックの松下明所長

 地域で高齢者から子どもまで幅広くケアする医療、福祉職による「日本プライマリ・ケア連合学会」の第5回学術大会が5月10、11日、岡山市北区駅元町の岡山コンベンションセンターで開かれる。高齢化に伴う医療費増大を背景に国が病院・施設中心から在宅ケアへの流れを強める中、その受け皿づくりは喫緊の課題だ。大会会長を務める奈義ファミリークリニック(岡山県奈義町豊沢)の松下明所長に現状と課題、学会の狙いなどを聞いた。

 ―学会に「連合」がつく意味は。

 2010年4月に日本プライマリ・ケア学会、日本家庭医療学会、日本総合診療医学会の3学会が合併して誕生した。いずれの学会も幅広い年代層と疾患を診て重症化を防ぐ点では共通する。高齢化に伴う日本の医療や介護で重要な役割を果たすため、一体となり活動することになった。

 ―今回の大会テーマを「家族の力、地域の力」としたのは。

 国は入院期間を減らし、早期に在宅ケアへ移るよう誘導しており、好むと好まざるとにかかわらず、誰もが「在宅」を迫られるのが現状だ。一方、家族は共働きや高齢者のみの世帯が増えるなど、その力は弱まっている。家族を支えたり、地域住民の助け合いなどの力をどう引き出すかが大きな課題といえる。

 ―在宅ではかかりつけ医の役割が重要だ。

 国は24時間体制で患者を診る「在宅療養支援診療所」の届け出をした医療機関には診療報酬を手厚くして支援してきた。ただ、今年4月の診療報酬の改定では、グループホームや有料老人ホームで1日に複数の患者を診た場合の報酬が、最大で4分の1にまで引き下げられた。一度に大勢の患者を診たり、高額の報酬目当てに施設の高齢者を有料で医師にあっせんする「患者紹介ビジネス」が発覚したためだが、一部の悪質な業者の問題。施設に訪問診療する医師が減る恐れもある。

 ―医師の育成システムも必要では。

 日本プライマリ・ケア連合学会は、かかりつけ医に求められる幅広い疾患知識、患者や家族の思いを引き出すコミュニケーション能力、介護との連携といったスキルを身に付ける教育プログラムをつくり実践してきた。さらに、17年度から始まる新たな医師の後期研修(3年間)では内科、小児科、救急の各学会などとともに「総合診療専門医」の教育プログラムをつくる。修了者を第三者機関が専門医として認定する仕組みで、臓器や疾患別の専門医とは別に、家庭と地域を専門とする医師が増える期待はある。

 ―学会の果たす役割は大きい。

 今回の大会は全国から約3千人が岡山に集まり、さまざまな取り組みが報告される。一人暮らしの高齢者宅を訪問して話し相手になったり、買い物に同行したりと介護保険でカバーできない部分を担う住民ボランティアをつくった地域もあり、参考になるだろう。先進医療に比べ、地域医療を目指す若者はまだ少ないが、ニーズは高まる一方だ。住民の健康、生活を守るプロとしての自負と誇りが持てるようにしたい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年04月30日 更新)

タグ: 健康介護福祉医療・話題

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