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(5)未来への提言 新見市国民健康保険湯川診療所・渡辺病院内科 藤井修一

藤井修一医師

 これまでの連載で地域医療の現状や岡山県で行われている対策についてお伝えしてきました。最終回となる今回は、地域医療の今後の在り方について考えてみたいと思います。

 今後の対策として私は三つの方法を考えています。一つめは地域で医師を教育する環境をつくること、二つめは基幹病院と地域医療機関との病院群で複合的キャリア形成を行うこと、三つめは住民・行政と地域医療を育てることです。

 地域医療機関では医師が少ないため業務に忙殺され、勉強する時間が少なくなります。最新の治療動向や基本的診療について常に学びがなければ医師として成長できず、やる気が低下してしまい、勉強ができる場所へ移動していきます。

 いままでは勉強できる場所が大学病院等に限られていました。しかし、最近では岡山県内でも奈義ファミリークリニックや哲西町診療所、大原病院など医師教育に力を入れている地域医療機関があり、医学生や若手医師が研鑽(けんさん)を積む場所になっています。

 地域医療はさまざまな健康問題や社会的背景を持った患者さんに対応する必要があり、総合診療を行う経験を多くできます。その現場で教育を受けることが医師を大きく成長させます。教育が行われ成長できるところに医師は集まります。いままではその教育への支援が不足していました。対策として、若手医師と教育を担う指導医をセットで地域医療機関に派遣することが考えられます。

 医師のキャリアで多いのは、まず大学で専門分野を勉強し、経験を積んでから地域で開業したり病院勤務をしたりというパターンでした。このパターンでは医師不足の地域へ行くことは少ないです。

 地域へ医師が行きやすい別のキャリアパターンも用意する必要があります。例えば、数年間地域病院で総合診療を実践し、大学病院で専門技術や臨床研究、教育技法などを勉強し、その後地域医療機関で指導医として若手を教育するパターンです。

 医師を大学病院等の基幹病院と地域医療機関で循環しながら経験を積ませる複合的キャリア形成は、医師が総合診療と専門医療どちらも勉強できるとともに、地域に医師を確保する方法としても有効だと思います。キャリア形成を担保することで、教育できる指導医を確保することができます。

 私が勤務している新見市では、ここ5年で救急車の市内受入件数を60%から80%程度へ増加させてきました。救急隊員には「市内で診てもらえるようになって助かります」と言われます。しかし、市民の中には「救急を多く断られる」という意見を言われる人もいます。医療者と市民とが現状がどうなのか、今後どうすべきなのかを話し合う必要があると思います。また行政はどういった努力を医療機関がしているのかを把握し、教育や救急などの診療に貢献している医療機関を重点的に支援する政策をとってほしいです。

 まずはお住まいの地域における医療の現状を知ること、そして困ることがあればその意見を医療者に伝えることが、地域医療を育てることにつながります。私はその意見交換や対話を通してこそ、よい医療ができると考えています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月02日 更新)

タグ: 医療・話題

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