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小学生に医療体験ツアー 新見市の協議会で人材育成事業

エコー検査でモニターに表示された画像を児童に説明する溝尾医師

医師の指導の下、シミュレーション人形を使って迅速な処置を学ぶ看護師ら=新見公立大

 新見市や医療機関などでつくる「市地域医療ミーティング推進協議会」(会長・金山時恵新見公立大看護学部教授)は現場の人手不足に対処しようと、新たな事業に乗り出した。地元で働く医療人に育つことを願う“種まき事業”として小学生に検査機器などに触れてもらう医師体験ツアーと、高齢化が進んで数年後には大量退職が予想されることから若手看護師らのレベルアップを狙った研修会が2本柱。すぐには変えられない過疎地の医療環境だからこそ、長期的な視点で改善を図る。

 西方小学校の5、6年生19人が参加し、3月6日に渡辺病院(高尾)で初めて開かれた体験ツアー。「エコー検査で首の血管を見てみよう」。西方出身の溝尾妙子医師(36)が子どもたちに呼び掛けた。

 溝尾医師は、女性医師や看護師らの働きやすい環境整備を目指す「岡山大医療人キャリアセンター」の分室が新見公立大に設置されたことを受けて岡山大から派遣され、2014年度に推進協議会のオブザーバーに就任した。

 ツアーでは検査の意味や測定器の扱い方などを説明し、モニター映像に見入る児童に「病院を身近に感じてね」と話した。

 児童は手術室や診察室も巡り、内視鏡で物をつかむ作業を体験。6年生(12)は「普段手にできない器具に触れられて楽しかった。どの道具も目的に沿って独特の形をしているのが印象的」。遠藤彰院長は「みんなと一緒に働ける日を楽しみにしています」と呼び掛けた。

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 市内にある4病院では、医療従事者の不足が大きな悩みになっている。12年末現在で、人口10万人当たりに換算した市内の常勤医師数は県平均の3割程度。看護師も約7割しかいないという。その上、常勤医は60歳以上が50%を占め、看護師・准看護師も50歳以上が46%を超えている。

 とりわけ医師を支える看護師の問題は深刻で、市市民課は「数年後には看護師の大量退職が予想されるが若手は少ない。現場が機能しなくなる恐れすらある」と危機感を募らせる。

 新見医師会や県看護協会新見支部、市などは、これまで看護学生に対する奨学支援金制度を設けたり、市内での勤務を考える看護師を後押しする「就職フェア」などを行ってきたが、厳しい現状は改善されていない。

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 ベテランの退職に備えるため、推進協議会は地域医療を担う人材の育成に取り組む「県地域医療支援センター」などと連携。2月下旬には若手看護師や保健師向けの研修会を初めて開いた。

 状況に合わせて心拍数や呼吸音などが変わる装置を内蔵したシミュレーション人形を使用。アレルギー反応など4種類のシナリオが用意され、参加者は容体が急変した“患者”の様子を観察し、迅速で適正な処置方法を探った。市内病院に勤務する保健師(23)は「想定外の事態にも適切に判断できるよう、より多くの経験を積む必要があると実感した」と振り返る。

 研修会は技術向上はもちろん、新見の研修体制を充実させ、元看護師の復帰や都市部からのIターンなどを促す下地づくりも視野に入れる。溝尾医師は「過疎地で働く若手従事者を確保するのは容易ではない。地元に残ってくれる医療人を育てていく取り組みは始まったばかり」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月02日 更新)

タグ: 医療・話題

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