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岡山大病院 肺移植50例超 国内医療リード 高い生存率 課題はドナー確保

50例を超えた岡山大の肺移植。生存率80%を超え国内の移植医療を大きくリードする

 岡山大病院(岡山市鹿田町)が手掛ける生体、脳死肺移植が五十例を超えた。一九九八年十月に手掛けた国内初の肺移植から約八年。移植数は他の病院を引き離し、五年生存率も80%超と世界平均を大きく超えるなど、国内の移植医療をリードする拠点施設になっている。

 一例目は、肺にうみなどがたまる気管支拡張症の長野県の女性だった。臓器移植法は九七年十月に施行されたが、脳死ドナー(臓器提供者)は現れず、岡山大は第二外科(現腫瘍(しゅよう)・胸部外科)を中心に、家族二人が肺の一部を提供する生体移植に踏み切った。全国が注目した手術は成功。女性は今も元気に生活している。


年間相談100件

 二〇〇二年一月には脳死移植を初実施。今年八月に通算五十例目となる生体移植、九月には五十一例目の同移植を行った。これまでの手術は生体四十二例、脳死九例。現在、国内の肺移植数は約八十例を数えるが、実績がある大阪大や東北大、京都大は各十例前後。全体の約60%を占める岡山大は群を抜き、移植を求める全国の患者の相談は年間約百件に及ぶ。

 生存率も極めて高い。患者五十一人のうち、術後の感染症などで七人が亡くなったものの、五年生存率は82%に達し、世界平均(49%)と比べて突出している。

 一般的に移植肺の機能不全は10~20%の率で起こる。外気と直接つながる臓器のため感染症の危険も高く、術後のリスクは決して低くない。担当する腫瘍・胸部外科の伊達洋至教授は「各診療科が連携したチーム医療と、手術後の手厚い容体管理が生存率向上の要因」と言う。

 岡山大では、脳死肺移植が日常的に行われる米国、豪州に医師を派遣。経験を積ませるとともに生存率を大きく左右する患者の術後管理方法も研究。移植肺の拒絶反応を抑える免疫抑制剤の投与法を工夫することで、副作用の軽減に成功した。成果は学会で報告し、移植医療水準の底上げにつなげている。


生体は次善の策

 課題はやはり脳死ドナーの確保だ。臓器移植法施行から丸九年を経ても、全国で行われた脳死臓器移植は計四十七例。うち肺が移植できたのは二十八例にとどまる。肺は他の臓器に比べ傷みやすく、開胸後に医学的見地から提供を断念することが多い。実績を積んできた岡山大でも、脳死移植は全体の二割しかない。

 ドナーとして家族二人が必要な生体移植には、健康体にメスを入れる倫理面での問題もある。清水信義・日本移植学会理事(前岡山大病院長)は「生体移植はあくまでも次善の策。脳死移植が進むのが望ましいのだが」と話す。

 肉親との血液型の違いなどで生体移植ができず、脳死移植でしか助からない患者も多い。岡山大の待機患者は現在、約三十人。伊達教授は「家族の意思をより尊重するなど、提供機会が拡大するような臓器移植法の改正が必要だ」と指摘する。


岡山大の肺移植めぐる経過

 1997年6月23日 第二外科(現腫瘍・胸部外科)が倫理委員会に生体肺移植を申請。

 97年10月16日 臓器移植法施行。

 98年10月28日 長野県の女性に国内初の生体肺移植。

 2000年3月29日 臓器移植法に基づく初の脳死肺移植が大阪大と東北大で行われる。

 01年3月27日 13歳男児に生体肺移植。15歳未満の小児は初めて。

 02年1月2日 関東地方の男性に初の脳死肺移植。

 06年8月21日 50例目の肺移植を生体で実施。


ズーム

 肺移植 重い肺の病気で機能しなくなった肺を、他人の肺と交換する手術。近親者から提供を受ける生体移植と脳死移植がある。1983年にカナダで最初の脳死肺移植が行われ、90年には生体肺移植も始まった。世界で約2万例が実施されたが、9割以上は脳死肺移植という。国内では約80例のうち約50例が生体肺移植。対象疾患は気管支拡張症や原発性肺高血圧症、特発性間質性肺炎など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年10月17日 更新)

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