文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 地域で支えよう精神科患者 倉敷でACT研修会 訪問重ねて安心感生む 運営費確保がネックに

地域で支えよう精神科患者 倉敷でACT研修会 訪問重ねて安心感生む 運営費確保がネックに

ACT研修会で取り組みを発表した各チームの代表者ら

 社会的入院が七万人に上るとされる精神科患者。不要な入院を防ぎ、地域で支えるシステムへの転換が求められる中、多職種の専門家チームが在宅サービスを提供する「ACT(アクト)」が注目されている。全国各地で導入を試みている機関・団体が先月、倉敷市松島の川崎医療福祉大で研修会を開催。支援の有効性が示される一方、少ない診療報酬や公的支援など、課題も報告された。

 ACTは一九七〇年代に米国で生まれた支援プログラム。国内では、二〇〇三年に国立精神・神経センターが「ACT―J」を立ち上げたのを皮切りに、各地で同様の地域ケアが広がっている。

 「既存の精神医療のほころびがよく見える」と話したのは、静岡県最多の病床数がある総合病院聖隷三方原病院(浜松市)の院長を辞め、〇四年四月から訪問ボランティア「カンガルーくらぶ」を始めた新居昭紀代表。治療中断で医療からも社会からも孤立した患者の多さに驚いたという。

 患者の多くは病歴二十年以上で四十~五十代。高齢の親に頼って暮らし、行き詰まるのは目に見えているが、医療への不信感が強い。訪問を重ねて徐々に信頼関係を築く手法が必要だが、「病院ではペイしないから見捨てられる」という。

 新居代表は、浜松市全体で訪問型支援が必要な患者数を公費負担申請者数から約二千五百人と試算。だが、支援を受けているのは二百五十三人とわずか十分の一。「ニーズは無限にあるが、病院の医師が地域に関心がない」と問題提起した。

 病識のない患者をどう治療へ結びつけるか。時に強制入院の形となり、患者にとっては医療不信につながりやすい。

 全国で唯一、県単独で事業化している岡山県の「ACTおかやま」作業療法士・野上俊子さんは、訪問拒否の女性患者の事例を紹介。患者と同じように子育て中のスタッフが母親として交流、「穏やかな医療」との出合いが患者の安心感を生み、治療へとつながったという。

 ACTは、困難と思われがちな就労支援にも積極的だ。

 「仕事ができるかどうかは症状の重さとは関係ない」と強調したのが「ACT―J」(千葉県市川市)の精神保健福祉士石井雅也さん。米国のIPSと呼ばれるモデルを参考に取り組む。

 企業が求める仕事内容を詳しく把握し、当事者の希望や能力と適合させる。事前に訓練などして次のステップを踏む従前の方法ではなく、実際の職場で体験させてみる。「役割意識や達成感、自尊心などが高まり、症状も軽減することが多い」と石井さん。

 研修会には、ACTと同様の取り組みをする全国八カ所のチームが参加。徐々に動きが広がっているが、財源確保などでネックも多い。

 「NACT」と称して民間病院で取り組む島根県浜田市の西川病院のチームリーダー・八重美枝子さんは、診療報酬で得られるのが訪問看護指導料の五千五百円(一回)しかない点を指摘。「九人の利用者で年間約六十万円の収入。完全に赤字」とし、独立運営する難しさを指摘した。

 京都市の「ACT―K」は、在宅支援専門の民間診療所を中心に、介護保険から収入が得られる訪問看護ステーションや大学との連携でNPO法人を設立するなどして運営費を捻出(ねんしゅつ)。「ACTは本来、医者が前面に出るべきではないが、現状では医者しか稼げず限界がある」と高木俊介医師は話す。

 「現場でそれぞれ何がどう必要か行政に情報を伝えていってほしい」と訴えるのはACT―Jの伊藤順一郎医師。「ACTは新しいビジョンに持っていくための手段。病院に依存しない新たなビジネスをやるくらいの気持ちが必要」と話した。 



メモ

 ACT Assertive Community Treatmentの略。重度の精神障害者が地域で暮らすための支援で、「包括型地域生活支援プログラム」と呼ばれる。病院への頻回な再入院を防ぎ地域生活を安定させる効果が実証され、米国や欧州で広く取り組まれている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年12月02日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ