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中皮腫に遺伝子治療 岡山大グループ効果確認  ヒト臨床 07年研究着手

中皮腫を発症したマウスの画像。治療前(右)に比べ、遺伝子を注入したマウスは発光量が低下した(左)

柏倉祐司特任講師

公文裕巳教授

 岡山大ナノバイオ標的医療イノベーションセンター(センター長・公文裕巳同大大学院医歯薬学総合研究科長)の柏倉祐司特任講師(37)らのグループは、アスベスト(石綿)が主な原因とされる「中皮腫」に対して、がん細胞を自滅(アポトーシス)に追い込む遺伝子を使った新しい遺伝子治療の効果を、世界に先駆け確認した。動物実験では腫瘍(しゅよう)が消失することを実証しており、今年からヒト臨床試験実施に向け具体的研究に着手する。

 石綿の被害は今後顕在化し、中皮腫患者は急増すると予想されているが、有効な治療法は確立されておらず、今回の成果は大きな“突破口”になる可能性がある。

 柏倉特任講師らは、特定の酵素を用い、人工的に発光する中皮腫細胞を遺伝子操作でつくり出し、画像撮影装置で見ることに成功した。

 この中皮腫細胞を使ってがんを発症させたマウスに、岡山大が二〇〇〇年に発見したがん細胞を自滅させる遺伝子「REIC」を、運び役となるウイルスを使って体内に注入。数日間隔で画像を撮影した結果、マウスのがん細胞数を示す発光量が段階的に低下。逆に何もしないマウスは発光量が増加した。

 正常な人間や動物の細胞は分裂・増殖を繰り返し、一定時間が経過すると自滅する。ただ、がん細胞は自滅せず不死化するため異常増殖し続ける。REICはこれまでの研究で、前立腺がんなど多くのがん細胞を自滅に導くことが明らかになっているが、中皮腫に対しても同じ働きがあることを初めて突き止めた。

 同センターは国の研究拠点形成事業として昨年七月に設置。がん細胞だけを死滅させるウイルス開発などを行っている。

 公文センター長は「REICを使った遺伝子治療の臨床応用の幅が広がった。中皮腫を含む難治性がんの新たな治療戦略を確立したい」としている。

画期的な成果

 日本初のアスベスト・中皮腫外来を開設した順天堂大の樋野興夫教授(病理・腫瘍学)の話 難治性の悪性中皮腫で、遺伝子治療の効果を新たな手法で確認したことは画期的な研究成果。早期の臨床応用を期待したい。

ズーム

 中皮腫 胸膜にできるがんの一種。潜伏期間は約40年で、進行してから見つかることが多い。建築資材などに使用されるアスベストが主な原因といわれ、国は1995年に毒性が強い青石綿、茶石綿、2004年には発がん性が弱い白石綿の使用を禁止。使用量の推移などから患者数は2020年から10年間ほどがピークになるとされる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年01月01日 更新)

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