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倉敷・柴田病院長に聞く 国の療養病床削減  介護難民生む恐れ 足りぬ退院後の受け皿

柴田勝博院長

 高齢者が長期入院する病院、診療所の療養病床が揺れている。国が医療制度改革の一環で医療費圧縮のため、一年前に打ち出した大幅なベッド数削減。それを経営面から誘導しているためだ。日本療養病床協会常任理事を務める柴田病院(倉敷市玉島乙島)の柴田勝博院長は「現状では患者が退院後に入所する介護施設が足りず、行き場に困る『医療・介護難民』を生む恐れがある」と懸念している。

 国の計画は、全国に約三十八万床ある療養病床(医療保険適用二十五万床、介護保険適用十三万床)を二〇一二年三月までに医療保険適用の十五万床のみに減らし、残りは老人保健施設やケアハウスなどに転換させる。医師の対応がほとんど必要ないのに、家庭の事情などによる「社会的入院」の患者がほぼ半数を占めるという調査結果も削減理由となっている。

 柴田院長が最も懸念するのは、介護保険適用の介護療養病床の全廃。高齢者は従来、病状が安定すると一般病床から医療療養病床、さらに介護療養病床へと移り、退院や介護施設入所に備えることが多かった。

 「介護保険を使用し病院スタッフが退院前に患者宅を訪れ、在宅療養の環境を整えることが介護報酬上認められるなど、在宅へソフトランディング(軟着陸)しやすかった。廃止すると、病院と在宅に“すき間”が生じる」と指摘。特別養護老人ホームや老人保健施設入所待ちの高齢者が一時、介護療養病床に身を寄せている現実もある。

 国は老人保健施設などへ転換を促すため、助成などの支援措置を示している。各医療機関は対応を探っているが、「多くは介護療養病床を介護施設より、医療療養病床や回復期リハビリ病棟に転換したいと考えているようだ」と柴田院長。国の計画通り退院後の受け皿ができるかは不透明という。

 柴田病院は療養病床のみの医療機関で、ベッド数は二百二床(医療保険適用百六床、介護保険適用九十六床)と岡山県内で最大規模。介護療養病床を今後どうするかは検討中だが、「患者の七、八割に認知症の症状があり、介護施設でなかなか受け入れてもらえず、在宅では必要なケアを受けられるか不安。こうした人が放り出されないようにしたい」という。

 一方、医療療養病床について国は昨年七月、医療の必要性により患者を三つに区分し、必要性が低い患者の診療報酬は従来の七割程度に下げる一方、高い患者は一・五倍に手厚くした。日本医師会の調査によると、四割の患者が医療の必要性が低い医療区分1とされ、医療機関にとって約一割の減収になった。

 柴田病院の場合、患者の六割を医療区分1が占めている。柴田院長は「医療区分1でも、意識障害などで退院が困難で医療サービスが必要な患者は多く、すべてが社会的入院とはいえない。医療区分は合理性に乏しく、見直すべきだ」と訴えている。


 しばた・かつひろ 兵庫医大卒。同大病院整形外科、岡山大病院リハビリテーション部などをへて2002年に柴田病院理事長。03年院長兼務。06年から日本療養病床協会常任理事。岡山市出身。41歳。



ズーム
 療養病床 医療機関のベッドは病気の種類により一般病床、療養病床、精神病床、感染症病床、結核病床に分かれ、医療スタッフの人数や設備の基準、診療報酬の仕組みが違う。療養病床は慢性の病気で長期療養する患者向け。医療保険と介護保険適用の病床がそれぞれある。療養病床だけの医療機関のほか、一般病床に療養病床を併設している施設も多い。岡山県内の療養病床は12月現在、医療保険適用146施設4588床、介護保険適用71施設1627床。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年01月06日 更新)

タグ: 健康介護高齢者福祉医療・話題

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