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精神障害者退院 岡山県が支援強化  数値目標、12年度までに1300人

精神障害の当事者宅を訪れて会話を交わす「ACTおかやま」の小田さん(右)

 精神障害者の社会的入院解消を目指し、岡山県は本年度から退院支援を強化する。現入院患者の25%に当たる1300人を2012年度までに退院させる数値目標を設定。地域生活を支えるため県の専門チーム「ACT(アクト)おかやま」などを拡充する方針だが、退院後の住宅確保は具体策に乏しく課題となっている。

 「相変わらず天井がにぎやかでな…」

 倉敷市内の住宅街。精神保健福祉士の小田智美さん(29)が近況を聞くと、男性(74)は顔をしかめる。男性には隣家の人が物を盗みに来るという妄想性障害があり、一昨年、それに怒って隣家に侵入、措置入院となった。

 病院には小田さんら「ACTおかやま」のスタッフが赴いた。男性の話に耳を傾けて信頼関係を築くとともに、地域で近隣住民に対して説明会を開催。民生委員への協力依頼やホームヘルパーなど福祉サービスの手配をして三カ月で退院した。

 「男性は薬が効きにくく、長期入院になりやすい」と小田さん。今も妄想はあるが、スタッフの頻繁な訪問で生活は安定している。

専門チーム拡充

 社会的入院患者は、受け入れ条件が整えば退院できるとされる。厚生労働省が約七万人と試算、地域生活への移行方針を出したことを受け、県は昨年三月、県障害福祉計画で千三百人の退院目標を設定、ACTの強化などを掲げた。

 ACTは医師やソーシャルワーカーら多職種が医療、福祉サービスを包括的に提供する。県精神保健福祉センター(岡山市古京町)と、県が委託した津山市の病院にあるチーム(計七人)を本年度は三人増やし、備前、備中、美作の三地域に分けて展開する。

 県のチームは先進地の英国で研修した医師を中心に〇五年度に編成。二十四時間三百六十五日態勢で、これまでに延べ五十五人にかかわった実績がある。

 ACT以外にも入院患者のニーズを聞き、必要なサービスなどを調整する「地域移行推進員」を県内各地に十一人配置。入院が長期化して地域生活に不安を持つ人がアパート型施設を使って試験的に外泊する事業も行う。

協議会発足へ

 社会的入院患者の多くは家族が亡くなっていたり疎遠になるなどして「帰る場所」がない。偏見が根強いため民間アパートへの入居も断られ、住宅の確保は常にネックになる。

 複数の精神障害者が暮らすグループホームは障害者自立支援法で事業所への報酬単価が下がった。このため、県精神障害者社会復帰施設協議会が昨年、十二事業所に行ったアンケートでは六事業所が「定員増」を希望したが、実際に計画があるのは二事業所のみ。「全事業所が経営面で厳しいと答え、大幅な増設は見込めない」(同協議会)という。

 公営住宅への入居も、保証人が必要なため、身寄りのない障害者は難しいのが現状だ。

 県は、医療・福祉に加え、住宅や就労など関係部局、団体で構成する協議会を今年夏までに発足。「幅広い支援で、障害があっても地域で暮らせるという大きな流れをつくりたい」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年05月29日 更新)

タグ: 福祉医療・話題

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