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老老介護「孤立一番良くない」 混乱、受容、感謝…そして幸せ 認知症の妻と15年 倉敷の男性

妻の博恵さんを介護する小川さん。散髪に行く間を惜しみ、髪は伸ばしたまま束ねている=倉敷市

 よろめく足腰で伴侶を抱きかかえ、しわの深い手でスプーンを口に運ぶ―。いわゆる「老老介護」が高齢化、核家族化で日常の風景となってきた。一方で積もる心身の疲れによる虐待や心中も後を絶たない。岡山市では今月、七十代男性が介護する妻を押し倒して死なせる事件もあった。悲劇を防ぐすべはないのか。ヒントを求め、認知症の妻を十五年間、在宅で介護する倉敷市の男性を訪ねた。


 「尿が少ない時は調子が悪いんですね」。倉敷市大内、小川久士さん(80)は認知症の妻博恵さん(73)と二人暮らし。博恵さんのおむつの重さを毎回測り、日々の排尿と水分補給の量をノートにびっしり記録している。既に会話は難しく、体調を把握するため、長年の経験で得た知恵だ。

 今日の日付が分からない、電話が鳴っても出方が分からず周囲をウロウロする…。異変に気付いたのは十六、十七年前。一九九三年、帰省した孫の診察と偽り連れて行った病院でアルツハイマー病と診断された。

 その二年後。自転車で外出した博恵さんが行方不明になった。近所の人にも協力してもらい探し回り、三日後に二十キロ以上離れた笠岡市で見つかった。「あれはこたえた。覚悟を決めたんです」

 高梁市出身の小川さんが同郷の博恵さんと見合い結婚したのは、建設会社の福井支店に勤務していた一九五六年。広島支店へ移り、六六年に倉敷に居を構えたが、中四国の建設現場を技術者として回り、自宅に帰るのは月一回ほど。八五年の定年後、自営で続けた建築積算などの仕事に区切りをつけたころ、妻に異変が起きた。

 「福山や水島、玉野の現場にいた間を除き、会社員時代の十五年間は単身赴任で、家のことも二人の子どもも妻に任せきり。介護はその罪滅ぼしです」

 博恵さんは介護の必要度が最も重い要介護5。近くに住む長男の助けを借り食事やトイレ、入浴など介護を続ける。週にヘルパーを四回、訪問リハビリを二回、訪問看護を一回と介護保険サービスをフルに使っている。

 おかげで週二回、自由時間ができ、介護家族の会などに参加。「仲間と話せば気分転換になり知識も得られる。介護には孤立が一番良くない」と言う。

 今年二月には自身が大腸がん手術を受け、入院した二週間は妻を老人保健施設に託した。「将来はプロに頼るほかないが、できる限り家でみたい」

 淡々とした口調。疲れはないのだろうか。「そりゃ、初めはどうしていいか悩み、妻に当たったこともあったよ」と打ち明ける。

 「でも、介護者には心の変遷がある。最初の五年は混乱期、次の五年は病だから仕方ないと思う受容期、十年過ぎると感謝。今は介護に専念できる幸せを感じています」


責任感強い高齢介護者 「もっと弱音をはいて」

 二〇〇四年国民生活基礎調査によると、要介護者と同居している主な介護者のうち、六十歳以上は55・6%と半数を超えている。八十歳以上も8・5%いた。認知症の人と家族の会岡山県支部の妻井令三代表(71)は「高齢者は責任感が強くまじめな半面、他人の世話にはなれないと思い込みがち。悲劇の犠牲になりやすい」と指摘する。

 中でも、介護者の四人に一人を占める男性は「相談するのが苦手。もっと弱音をはいてほしい」。相談先としては市町村の地域包括支援センターや介護家族の会などがある。「話すことで助けを得られ、身も心も軽くなる」と呼び掛ける。

 もう一つ、訴えるのが行政の責任。「孤立した介護者を把握するのは隣近所や町内会より、個人情報を持つ市町村の役割。だが、特に岡山、倉敷市などの都市部では目が行き届いていない」と、目配りとその後のフォローを求めている。


ズーム

 介護者の会 認知症の人と家族の会岡山県支部(086―232―6627)▽同広島県支部(082―240―5605)▽同香川県支部(087―823―3590)▽倉敷ねたきり・認知症家族の会(086―434―3301)▽水島地区介護者の会「とまり木の会」(086―446―4656)▽児島在宅介護者の会「ゆずり葉の会」(086―477―6076)▽玉島ねたきり認知症介護者の会(086―525―2372)▽倉敷市船穂町介護者の会(086―552―2893)▽津山市認知症の人と家族の会(0868(23)5130)―などがある。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年07月30日 更新)

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