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具体像見え始めた総合医療センター 「岡山ER」設置目指す 初期診療専念 総合病院とネットワーク

 岡山市が岡山大の協力を得て整備する岡山総合医療センター(仮称)の具体像が見え始めた。最大の特徴は、岡山ER(救急外来)の設置だ。あらゆる救急患者を常時受け入れる一方で、重症患者を他の医療機関に引き継ぐなど積極的にコーディネートを展開する。立地場所が絞り込まれる中で、利害が対立する面もある医療機関のネットワーク構築が課題となる。

 「地域医療体制の構築は急務。全国のモデルとなるような事業を展開したい」

 今月4日、同センター基本構想案を了承した岡山市と岡山大による医療連携に関する委員会。会長の高谷茂男市長はセンター実現に強い意欲を示した。

 構想案によると、センターは症状を問わず24時間態勢で救急患者を受け入れる。救急専門医が初期治療を施した上で、入院や手術の有無など治療の方向性を診断。ハイリスクな妊婦の治療や広範囲熱傷など高度治療が必要な患者が運ばれてきた場合には、重症患者を直接受け入れている岡山大など他の医療機関に振り向ける。

 センター開設に伴い廃止する市民病院(同市北区天瀬)の機能を引き継ぎ、内科、外科、小児科、産婦人科など18科をそろえる。病床数もほぼ同じ400床で、事業費は約146億円を見込む。

■双方にメリット 

 市がERに力を注ぐ背景には、救急患者の増加がある。市内主要7病院(岡山大、川崎、国立、済生会、赤十字、労災、市民)の救急患者数は2006年度約16万人と5年前より約4万人増加した。全体の9割近くは軽症患者とされ、「総合病院が本来果たすべき高度医療に支障を来しかねない」と市企画局。

 センターは、「不採算部門とされる救急分野」(同局)で、軽症患者も含めて積極的に受け入れることで、他の総合病院の負担を軽減する。救急専門医を配置し、あらゆる症状の患者に素早く対応する。

 松本健五・市病院事業管理者は「センターの救急専門医は入院患者の診察や手術を担当せず、初期診療に専念する。3交代制を敷くことで、当直医のような連続長時間勤務の問題も解消される」と患者、医師双方にメリットがあるとする。

 センターは医師の教育、人材育成も担う。

 軽いけがや風邪から重症患者まで診るERの現場を教育の場ととらえ、岡山大などから研修医を受け入れる。救急専門医を養成する体制も整える。準備段階として4月から市民病院に救急専門医3人を配置し、救急患者を治療しながら研修医を指導する。

■安心の体制 

 05年12月、市民病院の移転新築構想について、初当選から2カ月の高谷茂男市長が「経営的視点から検討を加えたい」と白紙撤回したことを受け、08年11月に打ち出された医療センター構想。

 構想案で示された大まかな財政シミュレーションでは、救急患者の増加などにより、企業の売上高に当たる医業収益は年間約80億円を見込む(市民病院は年間約70億円)。

 収支は、開業から6年目までは購入した医療機器の減価償却費などで赤字が4~7億円台となるが、7年目に1・7億円となり、10年目での単年度黒字を目指す。

 一般会計からの負担額は開業10年目までの平均が年7・5億円で、08年度の市民病院の11・5億円を下回ると試算。市民負担の軽減が図れるとしている。

 市企画局の高次秀明副局長は「センターになっても公立病院としての役割は変わらない。だれもが安心して治療を受けられる体制を敷く」とする。


コーディネート仕組みづくり 実質協議これから

 「すべての患者を岡山総合医療センターで治療できるわけではない。他の医療機関と連携しなければERは機能しない」

 基本構想案をまとめた岡山大病院(岡山市北区鹿田町)の森田潔院長が力を込める。

 センターの柱となる岡山ERは主に救急患者の初期診療を担う。軽症患者を積極的に受け入れ、重症者に対応する他の二次・三次救急医療機関の負担減を図る。

 一方で専門性の高い治療や手術が必要な患者は、より適切に対応できる医療機関に引き継ぐ。軽症者や回復期の患者らは地域の開業医などに受け継ぐ。

 そのために構想案は「すぐれた医療資源をいかして役割分担と連携を強化し、新たな地域医療ネットワークを確立する」と掲げる。

 岡山労災病院(同市南区築港緑町)の清水信義院長は「労が多く採算の合わない救急部門こそ『公』が担う役割にふさわしい。医療機関が役割分担しながら地域医療を担うことができる仕組み」と受け止める。

 岡山赤十字病院(同市北区青江)の近藤捷嘉院長も「軽症患者をセンターで多く担ってくれれば、われわれに余裕ができる」と歓迎する。

 地域の開業医の立場から、市医師会の丹治康浩会長も「市民の安全・安心を守るとの視点を最優先して取り組みたい」と前向きだ。

 ただ二次・三次救急病院の中にはセンターを「新たなライバル」とみたり、「多額の税金を投入して病床過剰地域に病院を設けるべきなのか」とセンター構想を疑問視する病院長もいる。

 重症患者への対応について構想案では、周産期医療や小児医療など診療分野や具体的な症状を示しながら、他の医療機関へ引き継ぐとしている。しかし、要となるコーディネートの仕組みづくりはこれからだ。

 岡山済生会総合病院(同伊福町)の糸島達也院長は「構想案の内容さえ知らされていない。センターが患者を抱え込む可能性もあるのでは」との思いを抱く。

 確かに、各医療機関を交えた連携をめぐる実質的な協議はほとんど進んでいない。

 心臓病センター榊原病院(同丸の内)を運営する医療法人社団十全会の榊原敬副理事長は「岡山大と市の2者だけの話が先行している。地域を挙げた連携を求めるならば、他の医療関係者や市民らを巻き込んだ協議の場を早期に設けるべきだ」と提案する。

病気予防から治療後介護まで 情報提供にも力

 岡山総合医療センターがERと並んで柱に位置づけるのが、保健・医療・福祉の連携機能。病気の予防、診療、治療後の介護に至るまで切れ目のないサービスを市民が受けられるよう、情報提供などを行うものだ。

 具体的な事業内容は描かれていないが、センターで手術などを受けた患者が一定レベルまで回復した後、退院後にどんなリハビリや介護を受ければよいかなどを助言。他の医療機関で受診した人の相談も受け付け、職員がマンツーマンで相談に乗ることも検討する。

 市企画局の今井均企画総務・調査担当課長は「患者によって病気の症状や収入、家族構成などが異なる。それぞれに最適な介護施設や病院を“ワンストップ”で紹介できる仕組みがつくれないか研究する」と説明する。

 市は企画局や保健福祉局、病院局などの横断的なワーキンググループを立ち上げ、事業の具体化に向けて協議中。市企画局は「10年度には具体的な構想の形を示したい」としている。


最有力候補操車場跡地 最短で15年度開業

 岡山総合医療センターの立地場所について、基本構想案は岡山操車場跡地(23・7ヘクタール)西端にある約1・8ヘクタールの市有地(岡山市北区北長瀬表町)を最有力とした。

 市内各所からの交通アクセスをはじめ、岡山大など他の医療機関と連携の容易さ、活用時の周辺条件を重視。他に候補地となった現在の市民病院敷地、岡山大病院に隣接する駐車場用地(同鹿田町)と比べ「望ましい」とした。

 構想案は市民病院閉鎖後も現在地に外来診療機能を検討するとしたが、地元を含む中心部の6連合町内会長は8日、現在地での病院存続を求める要望書を市に提出した。10日にセンターについて審議した市議会総務委員会は、地元住民への十分な説明などを前提に、構想案の方向で市が検討を進めることを基本的に了承した。

 整備スケジュールでは操車場跡地に決まった場合、最短で2015年度の開業となる。

 市は近く同跡地全体のゾーニング案を打ち出すとみられ、センター立地を含めた具体的な跡地利用の論議が始まる。


岡山市立市民病院の在り方と岡山総合医療センター(仮称)構想の推移

2005年12月 高谷茂男市長が市民病院の岡山操車場跡地への移転新築構想を白紙撤回

  06年6月 有識者らでつくる市民病院のあり方検討委が発足

  07年1月 市民病院のあり方検討委が「病院存続、建て替え」の提言書を提出

  08年2月 市内部の専門会議が岡山大との連携による新たな病院の方向性を示す

     11月 市がERを含む岡山総合医療センター構想案を公表

  09年3月 岡山大と市が岡山総合医療センターの運営協力で協定締結

     11月 市と岡山大が岡山総合医療センター基本構想素案を公表

  10年2月 市と岡山大が岡山総合医療センター基本構想案をまとめる。整備候補地は岡山操車場跡地が最も望ましいとする
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月14日 更新)

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