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第14回 手の外科 笠岡第一病院 橋詰博行院長 日帰り手術で機能回復 ロコモ予防へリハビリ

はしづめ・ひろゆき 1981年岡山大大学院修了。岡山済生会総合病院勤務、岡山大医学部助教授(整形外科)を経て2005年から笠岡第一病院院長。東大大学院工学系研究科非常勤講師。日本手の外科学会専門医。

最新のCTやMRIで撮影した患部の画像を処理し、岡山画像診断センターと連携して診断に当たる笠岡第一病院のスタッフ

 二足歩行する人間は、自由に動かせる手に高度な機能を担わせている。手のけがや疾患は生活に大きな障害をもたらす。手の外科を専門とする笠岡第一病院(笠岡市横島)の橋詰博行院長は日帰り手術を普及し、リハビリにも力を入れている。

 ―院長に就任されて以来、手の外科の手術件数が飛躍的に伸びていますね。

 2005年5月に赴任しました。05年度は342件だった手術が09年度は1002件に上り、ほぼ3倍になりました。神経が圧迫される手根管(しゅこんかん)症候群、腱鞘(けんしょう)炎が進行したばね指、骨折、手根管以外の神経障害、変形性関節症やリウマチ、良性軟部腫瘍(しゅよう)…など、さまざまな疾患が対象になります。

 ―特に件数の多い手根管症候群は、原則、日帰りで手術できるそうですが。

 関節鏡下手根管開放手術という手術法で、局所麻酔し、20分くらいで終わります。手首の根元を1センチ程度切開してプラスチックの外筒(直径6ミリ)を差し込み、その中に関節鏡(同4ミリ)を入れます。腱や神経を傷つけないように見ながら、圧迫している横手根靱帯(じんたい)を切ります。以前は手のひらを8センチくらい大きく切っていました。

 ―手術すれば根治するのでしょうか。

 初期なら根治します。進行していても9割くらいの方は改善します。筋肉がやせてつまみ動作などが非常に困難な場合は、腱移行術という腱を再建する手術も行っています。

 早期診断、早期治療が一番ですが、手のしびれにはいろんな原因がありますから、他の病気との鑑別診断が重要です。

 ―ばね指ではどんな手術をするのですか。

 注射針で腱鞘の一部を切って引っかかりをなくす腱鞘切開手術を行います。局所麻酔で10分程度の日帰り手術です。関節鏡を使う施設もありますが、私たちは経験を積んで安全性を確認しており、注射針でやっています。

 ―加齢とともに多くなる関節症は、どんな治療法がありますか。

 親指のつけ根の関節が変形する母指CM関節症という疾患が多いのですが、痛みや日常生活動作の制限、レントゲン所見を総合して手術の適応を判断します。手術で使う人工関節には、摩耗による耐久性の問題があります。患者さんとよく話し合い、固定装具を作って保存的治療でがんばってみようと決める場合もあります。

 ―近年、運動器障害のために要介護や寝たきりになるロコモティブシンドローム(運動器症候群=ロコモ)が注目されていますが、手も重要な運動器ですね。リハビリの専門スタッフとどう連携しておられますか。

 手の外科ではリハビリが重要です。ロコモ予防の観点からも、手をできるだけ動かして訓練することが大切です。手をついて転ぶと、お年寄りは前腕の橈骨(とうこつ)遠位(えんい)端(たん)が折れやすい。従来はギプスで長期間固定し、骨はくっついても指の拘(こう)縮(しゅく)で日常生活が不自由になりがちでした。

 最近はできるだけ早めにリハビリを開始するように連携しています。ギプスを外して訓練し、終わったらまた固定する。退院後も家で同じように訓練してもらう。患者さんとドクター、作業療法士・理学療法士が三位一体で訓練していくのが重要ですね。

 ―岡山大では先進的に遠隔医療を研究されましたが、どう実践しておられますか。

 岡山画像診断センター(岡山市北区大供)で遠隔画像診断をしていただいています。主にCT(コンピューター断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像)の読影をお願いし、われわれと二重診断して、できるだけ正確な診断に基づいて治療します。

 手をついたり、ひねったときに痛める手関節TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷では特別な画像診断が必要ですし、腫瘍が良性か悪性かを鑑別するのにも大事です。がんであれば学際的な高度治療が必要ですので、連携している岡山大病院にお願いしています。術前から抗がん剤治療が必要になる場合もありますから、メスを入れてしまってからでは遅いのです。

 ―院長としてどんな病院を目指しますか。

 地域住民の健康をサポートすると同時に、独自の専門医療を提供する二本立てでやっていきます。専門分野を特化したドクターが集まり、救急をはじめとする地域医療と専門医療を両立させています。患者さんだけでなく、地域のドクターの要望に応えられるような病院を目指しています。私も水曜日は真鍋島へ出かけ、離島医療も実践しています。

手根管症候群、ばね指

 手根管症候群は女性に多く、人さし指、中指を中心にしびれや痛みが出る。親指のつけ根(母指球)がやせてくると、縫い物など細かい作業やつまみ動作も困難になる。手の真ん中を走行する正中神経が手根管トンネル内で靱帯に圧迫された状態になっており、切り開いて圧迫を解除する手術が行われる。

 ばね指(弾発指)は指を曲げる力を伝える屈筋腱と、腱を包んで浮き上がりを押さえている靱帯性腱鞘の間で炎症が起きる腱鞘炎が進行した状態。指を使いすぎると腱鞘が肥厚したり、腱が肥大し、指の曲げ伸ばしで引っかかるようになる。手術では腱鞘の一部を切り離し、腱を通過しやすくする。

遠隔医療

 笠岡第一病院は2001年に電子カルテの運用を開始し、08年5月から岡山画像診断センターとネット連携している。解像度の高い1・5テスラMRI、64列マルチスライスCTなど最新の画像診断装置を備え、セキュリティーを確保した回線を通じ、同センターへ画像データを送信。カルテもセキュリティーを確保したブラウザで閲覧できるシステムを構築している。

 映像の色彩を忠実に再現できるナチュラルビジョン技術を導入。離島に住む患者の状態をハイビジョンカメラで撮影し、病院にいる医師がテレビ会議システムで診察する遠隔医療診断の実証実験にも取り組んでいる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年04月26日 更新)

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