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(2)患者中心に考えた糖尿病診療の実際 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

 糖尿病患者は増え続けており、2016年の厚労省の調査では「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性が否定できない人」を合わせると、国内には2千万人いると考えられています。そのうち「糖尿病が強く疑われる人」の約3分の2は高齢者であります。

 糖尿病を発症すると種々の合併症を起こします。糖尿病に特有な合併症には網膜症、腎症、神経障害があり、大血管障害には虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳梗塞、末梢動脈疾患があります。さらに悪性腫瘍の発症頻度が高まり、認知症の合併リスクは1・5~2倍になります。感染症も起こしやすくなり、現在、最も恐れられている新型コロナウイルス感染症は血糖コントロールが悪いとかかりやすく、重症化しやすくなります

 合併症の有無を知るには、網膜症であれば年1回の眼底検査は必要です。腎症の早期診断に尿アルブミンは有用であり、同時にeGFR(推算糸球体ろ過量)で腎機能をチェックします。これらは腎症の重症化予防に不可欠な検査です。頸(けい)動脈超音波検査は動脈硬化の程度をみる上で有用です。悪性腫瘍の併発を知るには胸部単純エックス線、消化管内視鏡、便潜血、腫瘍マーカーなどの検査が用いられます。

 合併症を起こさず、健康な人と同じような健康寿命を維持するには、血糖、血圧、脂質、体重のコントロールが重要です。血糖コントロール目標は図1に示しています。高齢者糖尿病については日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会によって目標値が示されています=図2。高齢者の認知機能、基本的な日常生活動作(ADL)、手段的ADL、併存疾患などを考慮してカテゴリーI~IIIの三つの群に分け、その基準は認知機能と生活機能を評価するDASC―8を用います。

 さらに低血糖は認知機能の低下、転倒や心血管疾患の危険性が増すと考えられており、インスリンやスルホニル尿素薬(SU薬)の投与を受けている人は緩やかな基準となっています。

 目標体重は肥満指数(BMI)22とされていましたが、高齢者ではかならずしも当てはまらず、痩せすぎは良くないことがわかってきました。目標体重の目安は、65歳未満では[身長(m)の2乗]×22ですが、65歳以上は[身長(m)の2乗]×22~25の幅を設けています。

 食事療法を行う際、1日の総エネルギー量は、目標体重に労作によって異なる身体活動量を掛けて求めます。身体活動量は、軽い労作(座っていることがほとんど)では25~30kcal/kg、普通の労作(通勤・家事・軽い運動を行う)では30~35kcal/kg、重い労作(力仕事など)では35~kcal/kgとなります。

 サルコペニアやフレイルの予防のためには、十分なタンパク質の摂取が必要です。また、併存疾患などの影響で低栄養の人は比較的多めのエネルギーを摂取することをお勧めします。

 最後に、健康寿命を維持するために何よりも大事なことは、適切な治療・ケアを続け、合併症を起こさないことであります。

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 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 まつき・みちひろ 大分県立大分上野丘高校、川崎医科大学卒。川崎医科大学大学院修了。同大学講師、准教授、川崎医療福祉大学教授を経て2012年から現職。日本糖尿病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年06月21日 更新)

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