(下)裂肛 チクバ病院・鈴木健夫医局長 老若男女問わず起こる 慢性化しこじれる場合も
裂肛悪循環のメカニズム
慢性型の裂肛
すずき・たけお 1996年香川医科大医学部(現・香川大医学部)卒。同医科大付属病院、愛媛県立中央病院などを経て2006年からチクバ外科・胃腸科・肛門科病院に勤務。
症状は、排便時の肛門部痛、出血が主なもので、時にイボ(肛門ポリープなど)を伴い脱出症状を認めたり、肛門が狭くなることもあります。
病態
裂肛ができる部位は、肛門の縁から奥へ1・5センチくらいの肛門上皮と呼ばれる部分(皮膚と直腸粘膜の間にある肛門管)です。肛門上皮は直腸に比べて血行も悪く、弾力性にも乏しく、痛みに敏感な部分で、切れると軽い出血を認めます。裂肛は肛門の後方(背中側)にできることが多く、側方にできる裂肛は他の病気を考える必要があります。
また、単なる皮膚の傷であれば自然に治癒しますが、肛門の場合は、しばしば便が通るために治りにくく、切れたり治ったりを繰り返して慢性化すると手術をせねばならなくなります。
経過
◇急性型
ひどい便秘や下痢をした時に急に症状が出現します。普通は排便の調整や軟膏(なんこう)処置などで治りますが、慢性化するケースも少なくはありません。
◇慢性型
裂肛には図1に示すように、悪循環を起こし、慢性化してこじれていくケースがあります。
そのきっかけは、排便時の肛門痛のため、便を出し切れないこと、または排便を我慢してしまうことです。排せつされなかった便は直腸内にたまり、徐々に水分が吸収されて硬くなります。そのため、次の排便時にはさらに状況は悪化します。これが繰り返されると、切れた傷が深くなり、周囲が硬化してより切れやすく、治りにくくなり、肛門痛、出血も悪化します。
慢性化すると、キレ痔の奥に肛門ポリープ、外側にイボ(見張りイボ)ができて手術適応となります。これらは慢性裂肛(肛門潰瘍)の3徴候と呼ばれています=図2参照。
悪化することなく裂肛を繰り返す場合もありますが、傷が引きつれて肛門が狭くなったり、傷から細菌が入り肛門の周りが化膿して肛門周囲膿瘍になることもあります。
治療
切れ痔は良性の病気であり、医師が治療法を強要するものではありません。そのため個々の症例に応じて、患者と医師が相談しながら治療方針を決めていきます。
◇保存治療
発症して間のない、傷が浅くて、症状が軽い裂肛は手術をしません。便秘の予防がもっとも大切で、食事などに注意を払い、軟便剤、下剤を使用し排便調節を行います。さらに軟膏を塗って、傷の保護を行います。これらの治療で多くは治りますが、再発を繰り返していく場合もあります。
◇手術治療
保存治療で軽快しない(症状が軽くならない)、傷が深い、肛門が狭い―などの慢性化した裂肛が手術適応となります。手術をしても、排便のコントロールが不良ですと、再発しやすくなります。
手術の方法は次のようなものです。
(1)潰瘍切除術=肛門ポリープ、見張りイボを伴う硬化した裂肛部分を切除し、肛門を軟らかくする目的で行います。
(2)肛門狭窄(きょうさく)拡張術(内括約筋側方切開術、皮膚弁移動術)=括約筋を切開することなどにより肛門を広げ、切れにくくします。
留意点
日常生活で気を付けていただきたいことは次の通りです。
1、排便調節(便秘予防)=水分、食物繊維をしっかり取る▽運動する▽我慢しない排便習慣を身につける▽ゆとりを持ちストレスの軽減を図る▽下剤、軟便剤を使用する。
2、温める=おしりが冷えると血行が悪くなり、括約筋の緊張が強くなります。また血行が悪いと傷の治りも悪くなります。
一般外来でもよく見かけられる裂肛ですが、漫然と投薬のみで治療され、ひどくなってから肛門専門医を受診される方を多くお見かけします。誰にとっても、おしりを見せるのは恥ずかしいもので、肛門病院の敷居はとても高く感じます。
しかし、痔が治って快適な生活が過ごせるかもしれませんし、癌(がん)など別の病気が潜んでいるかもしれません。恥ずかしいと思わず、もしくは、たかが痔と思わず、肛門部痛、出血などを認めた時は、ぜひ肛門専門医を受診されることをお勧めします。
(2011年04月18日 更新)
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