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(6)「ふるえ」の治療にFUS 岡山旭東病院脳神経外科主任医長 島津洋介

島津洋介氏

 「手がふるえて字がうまくかけない」「食事のときに箸やコップがうまく持てない」「手足や頭が勝手にふるえてしまう」と自分の意志に反して起きるふるえの症状は、緊張や寒さなどの生理現象で起きることがほとんどですが、「本態性振戦」や「パーキンソン病」という病気が原因になっていることがあります。

 「本態性振戦」は、明らかな原因や病変が存在せず、手足や頭にふるえの症状が発症する病気で、65歳以上で5~14%、40歳以上でも約4%の人に認められ、30代や20代から発症するケースも少なくないと言われています。

 「パーキンソン病」は脳内で運動の仕組みを調節しているドパミンの減少によってふるえや動作緩慢、筋強剛、姿勢保持障害などの運動症状を引きおこす病気で、高齢化に伴って患者数は増加傾向にあります。

 どちらも命に関わるものではありませんが、重症化すると日常生活や社会生活に支障が出るため、薬物治療や外科的治療が行われています。

 外科的治療は、頭蓋骨に小さな穴を開け、調節可能な電極を挿入して電気刺激により効果を得る脳深部刺激療法や、熱疑固針を刺入して治療部位を凝固させる高周波凝固術などが行われてきました。

 当院では、2021年4月にMRガイド下集束超音波治療(MR―guided Focused Ultrasound=MRgFUS、以下FUS)を導入しました。

 FUSは、ふるえの原因となっている脳内の部位を超音波により熱凝固させて、症状を改善に導くことのできる治療法です。MRIで位置や温度を正確に確認しながら、約1千本の超音波ビームを対象部位に集中させて熱凝固するため、他の部位への負担を小さくし、頭の切開や穿孔(せんこう)もなく治療をすることが可能です。

 電極や機器の埋め込み、放射線による被ばくなどがないため、他の治療と比べると出血や感染のリスクが少なく、体への負担やストレスの少ない治療といえます。入院期間は6~10日と短く、治療中に医師や看護師と対話をすることができ、状態変化や効果の確認ができることもこの治療の特徴です。

 当院で治療した患者さんには症状の改善が見られましたが、FUSの適応にならない方もおられますので、岡山大学病院、倉敷平成病院と連携して、それぞれの患者さんに合った治療の提案をおこなっています。

 FUSは公的医療保険適応の治療ですが、本態性振戦やパーキンソン病と診断され、薬物療法の効果の低い人など、いくつか適応条件がありますので、まずは専門の医師に相談をしてください。

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 岡山旭東病院(086―276―3231)

 しまず・ようすけ 岡山大学医学部医学科卒業。岡山市立市民病院、岡山大学病院、広島市民病院へ勤務し、2017年より2年間、米国ノースウエスタン大学へ留学。岡山大学病院勤務を経て、20年9月より岡山旭東病院勤務。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年10月04日 更新)

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