文字 

妊婦コロナ感染増 県内1月71人 病院負担重く、入院基準を変更

コロナに感染して入院した妊婦をケアする岡山赤十字病院の江口医長=10日(同病院提供)

 新型コロナウイルスの変異株・オミクロン株が猛威を振るう中、岡山県内で妊婦の感染が目立っている。感染確認は1月だけで71人。周産期母子医療センターに指定されている県内6病院が中心となって治療に当たるが、関係者からは「重症化リスクの高い高齢者の入院も増えている。ベッドが埋まり、母子が危険にさらされる事態に陥りかねない」との声も上がっている。

 「妊婦の感染は爆発的に増えている。感染していない重い症状の妊婦への対応もあり、ぎりぎりの状態だ」

 同センターの一つ、岡山赤十字病院(岡山市)の江口武志・産婦人科医長は危機感を隠さない。

 同病院のコロナ患者向け病床は22床で、11日時点で16床が埋まる。直近2週間でみると、入院患者の3分の1程度を妊婦が占める。

 投薬といったコロナ治療に加え、「より厳重に母子の状態を把握しなければならない」(江口医長)ことから、通常よりも時間をかけて超音波検査などを実施。感染対策もあり、スタッフにかかる負担は重い。

 コロナに感染した妊婦の入院調整を一手に担う県から、入院要請が増え始めたのは1月中旬ごろ。人手不足から、産婦人科では同下旬からコロナ以外の妊婦に対する不急の手術や外来診療を延期。懸命の人繰りで持ちこたえるが、別の懸念もある。「高齢のコロナ患者も増えている。今後、どれだけの病床が妊婦に使えるだろうか」と江口医長。

 県などによると、コロナに感染した妊婦は原則入院としていたが、感染者の増加を受け、1月下旬に入院基準を臨月を控えた「妊娠34週目以降」に変更した。自宅や宿泊療養施設での療養者は、かかりつけ医らが日々の健康観察を行い、急変時には事前に決めておいたバックアップ病院が対応する態勢を敷いている。

 川崎医科大付属病院(倉敷市)では今年に入り、2月9日までにコロナに感染した5人の妊婦が入院。このうち2人が、入院療養中に出産した。

 入院療養中の出産は、妊婦の体調管理と医療従事者への感染防止のため、原則として帝王切開手術で行う。「その準備には通常の帝王切開の4、5倍の時間と2倍の人手が必要」と同病院。新生児は「陽性疑い」となるため、専用の部屋を確保しなければならない。

 国立病院機構岡山医療センター(岡山市)には8日時点でコロナに感染した妊婦2人が入院する。同病院は、県内に2カ所しかない「総合周産期母子医療センター」。年間に100人を超える重篤な妊婦が運び込まれ、岡山の周産期医療の最後の砦(とりで)といえる医療機関だ。熊澤一真・産婦人科医長は「これ以上、コロナに感染した妊婦を入院させると、他の疾患の妊婦の受け入れを制限せざるを得なくなる」とする。

 胎児への影響を心配し、かかりつけ医に不安を訴える妊婦も増えている。

 三宅医院(同市)には1日に2、3件、コロナの濃厚接触者や風邪の症状がある妊婦から相談の電話があり、必要に応じて発熱外来などを紹介する。三宅貴仁院長は「母体がコロナに感染しても胎児に影響が及ぶことはまれといったことを、時間をかけて説明し、安心してもらうことを心がけている」と強調する。

 ただ、妊娠後期の28週目以降は重症化リスクが高まるとの報告もあり、飲み薬・モルヌピラビルの使用も禁止されている。川崎医科大付属病院の下屋浩一郎・産婦人科部長は言う。「妊婦の重症化を防ぐためにも高齢者と同様に、3回目のワクチンを早期に接種できる環境を整えるべきだ」

 周産期母子医療センター リスクの高い母体、胎児や新生児に高度で専門的な医療を提供するなど、周産期医療の中核を担う医療機関。より重篤な症例を扱う「総合」と、それに協力する「地域」がある。岡山県の「総合」は国立病院機構岡山医療センターと倉敷中央病院(倉敷市)の2病院。「地域」は岡山赤十字病院、川崎医科大付属病院、岡山大病院(岡山市)、津山中央病院(津山市)の4病院が指定されている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年02月13日 更新)

ページトップへ

ページトップへ