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(8)季節で変わる情景と疾病と 注意喚起し、予防にも力

愛宕宮から眺めた新庄村中心部の風景。赤い石州瓦と山の緑、青空が鮮やか

 大型連休の明ける頃から、診療所や私が暮らす官舎の周囲では田植えが始まりました。県南よりは相当に早いですよね。

 この時期は診療所への来院者は若干減少です。皆さん、まずは田んぼの世話、さらには畑の草を抜き夏野菜を植えたりと、お忙しそうです。5月初旬には、お隣の真庭市と合同のグラウンドゴルフ大会。そちらを休んで受診されたり、大会終了後に午後から受診されるなどさまざまでした。

 花や新緑の季節です。森の中へ入って山葵(わさび)、蕨(わらび)、筍(たけのこ)、独活(うど)などの収穫もされます。そうすると、蜂刺されや畑などでの転倒で受診される方もあります。蜂に刺されて困ったことのある方には「アドレナリン注射液自己注射キット製剤」(エピペン)をお渡しし、次に刺された時のアナフィラキシー予防の指導もさせていただいています。

 季節によって受診の内容は変化します。3月頃には低温熱傷での受診がとても多かったのです。ここ1、2年は雪が比較的少なかったけれど今季は平年並みに戻ったようだ、ということで防寒を強めにされたのでしょうか?

 その中のお一人、高齢の女性の方は左下腿部に、大人の手のひらより一回り大きいくらいの熱傷があり、一部は水疱(すいほう、水ぶくれ)が潰(つぶ)れていました。周囲も圧痛が強く、かなり深い部位まで熱の影響がありました。ご家族等の事情もあってなんとか村で治療を継続したいとの要望で対応しています。

 肉芽形成を促す塗布剤や時に腫脹(しゅちょう、腫れ)の強い箇所にメスを入れて減張するような処置も行い、少しずつ改善し、でもまだ継続中です。炬燵(こたつ)をもう少し暖かくしようと、ファンヒーターの熱風をホースで炬燵に引き込むような工夫をする中で生じたらしいとのことでした。

 他にも、炬燵の温度を普段から熱く設定される糖尿病の高齢男性。両膝や下肢の水疱形成で来られました。こちらの熱傷深達度は激しくなく、短期間の処置で改善しました。でも、糖尿病の神経障害などで末梢の感覚などが鈍くなっていて、このような事態を招きやすくなっていたのかも知れません。

 お隣の村(今は真庭市に併合されています)の高齢男性も両側の下肢に水疱ができていました。この方も糖尿病や慢性心不全を抱えていらっしゃるのですが、これらの病気は市内のかかりつけ医で処方を受けられています。ただ、今回の低温熱傷については、ご自宅から近いこちらに来られました。

 思わぬような場所にも水疱が次々と出現しているので、熱傷ではない特殊な病態の可能性も考えましたが、検査所見でその疑いもなく、2カ月弱、通院していただいて皮膚の症状は治まりました。ただ、腰痛や膝の痛みもあり、そういった面での加療を継続させてもらっています。

 梅雨の晴れ間、がいせん桜通りの西の山の中腹にある愛宕宮に詣でました。石州瓦の赤い屋根が澄み切った青空と瑞々(みずみず)しい緑の中に際立っています。梅雨明けには山村でも熱中症なども起こってくるのですが、病気は風物詩ではありません。村内への注意喚起などで、予防にも力を入れたいと思っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年06月06日 更新)

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