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児童虐待通告をシステム化 倉敷成人病センター

倉敷成人病センター子ども虐待防止委の御牧委員長

 倉敷成人病センター(倉敷市白楽町)は院内に「子ども虐待防止委員会」を設置。来院者に児童虐待が疑われる場合、医師や看護師から報告を受け、委員会が児童相談所などに通告するシステムをつくった。児童虐待防止法は、医師ら個人に通告を義務付けているが、保護者とのトラブルなどを恐れてためらうケースもあるという。虐待の芽を早期に摘み取るためのシステム化で、岡山県によると、病院全体での取り組みは「県内では例がないのでは」という。

 防止委は、御牧信義小児科部長を委員長に看護師や心理士、ソーシャルワーカーら8人で組織。独自に虐待チェックシートを作り、院内で通告に向けた意識統一を図って今月から本格稼働している。

 チェックシートの項目は、診察の順番が待てない▽保護者間で病歴の説明が食い違う▽診察で触られるのを子どもが異様に嫌がる▽子どもに虫歯が多い―など。これらに着目し、待合室の様子や診察などを通して身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)などが疑われる親子らを見つけた場合に報告を受ける。防止委は重症度や緊急度に応じ、医師らに代わって児童相談所や警察に通告、通報する。

 虐待の判断は困難だが、保護者が生活や心の問題を抱え、地域の子育て支援が必要と考えられる場合は行政の担当部署に通告。保育所や学校、児童委員など既存の地域ネットワークの中での継続的支援に結び付ける。

 保護者からは通告の「同意」を得るよう心掛け、円滑な支援提供につなげる。

 県子ども未来課によると、医療機関では、保護者とのトラブルが心配▽虐待の対応に不慣れ▽時間的余裕がない―などを理由に通告をためらう場合があるという。実際、県が受ける年間約750件の虐待相談の経路に医療機関が含まれる割合は5、6%にとどまる。

 御牧委員長は「乳幼児や妊婦と接する機会が多い医療機関にとって虐待防止は社会的責務。通告を『支援の第一歩』と捉え、虐待の芽を見過ごさない体制を病院全体で整えたい」と話す。

「来院は親のSOS」 御牧委員長

 子ども虐待防止委員会の御牧信義委員長に病院での現状や思いを聞いた。

 ―患者の様子は。

 「妊婦の1割は育児不安を抱えている印象。特に未婚やシングルマザーで、周りに相談できる人が少ないほど不安が強まる傾向がある。大半は緊急性が低いが、おなかの子に愛情が持てないと訴える、子どもを入院させたまま様子を見に来ない、父親が高校生―など、放置するとハイリスクにつながりかねないケースも数%ある」

 ―親が子どもを治療に連れて来て虐待が見つかることもある。

 「虐待を隠したいのなら病院に来ないはずだ。治療に連れてくるのは『子育てに悩んでいる』というSOSだと捉えている。その半面、育児の失敗を認めたくなかったり、自己判断だけで他人に悩みを打ち明けることに抵抗も感じている。助けを求めるため、自ら積極的な行動に出ることは少ない」

 ―こうした親へのアプローチは。

 「市町村や児童相談所に連絡して支援を受けてみたらどうかと勧めている。経験上10人中5、6人は同意してくれる。それだけ心身ともに追い込まれている証しだろう。ただし信頼関係ができていることが絶対条件。そのため普段から相手の言葉を傾聴し、共感するよう心掛けている」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月26日 更新)

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