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(2)音楽療法士 心身リハビリに効果

高齢者の手を取り歌謡曲を口ずさむ石井さん。お年寄りの顔が自然とほころぶ=福寿荘

 「吹けば飛ぶような将棋の駒に…」。老人保健施設・福寿荘(倉敷市中島)の一室から、お年寄りの楽しそうな歌声が聞こえてくる。歌や楽器演奏を通じ、病気、事故などで低下した身体機能の向上や心のケアを図る「音楽療法」。伴奏のキーボードは音楽療法士の石井未来さん(30)が担当する。

 認知症の高齢者5人が参加したこの日のプログラムは、村田英雄の「王将」や、「岸壁の母」「お富さん」など昭和の歌謡曲が大半を占める。「本当によくはやった曲じゃ」「優しかった母親を思い出す」。森川福市さん(92)は昔を懐かしむように、穏やかな笑みを浮かべる。

 一緒に歌ったり、手を取ってタンバリンや太鼓のたたき方を教えたり…。約40分間、石井さんが動きを止めることはない。音楽を媒介とした触れ合いによって「ストレス発散だけではない。徘徊はいかいが収まるなど、認知症に伴う行動障害が軽減されることもある」と効果を語る。

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 福寿荘のほか、倉敷紀念病院、通所リハビリせいわなど同じ敷地で医療・福祉施設を運営する医療法人・誠和会。「動きにくかった利用者の手足が動くようになったり、笑顔が増えるなど、心身のリハビリになる」と効果に着目、8年前から音楽療法士を雇用している。

 三重県出身の石井さんは、2006年から正規職員として音楽療法に専任。カナダの大学でピアノを学んで帰国後、「指導者とは違う仕事で、技能を役立てたい」と考えていたところ、テレビで音楽療法士の存在を知り、埼玉県の専門学校を経て現在の職に就いた。

 1日に2~4回、誠和会の各施設を回るのが日課。「恥ずかしがっていた人も緊張が解けると、自然と体を動かすようになる。皆さんの笑顔が生きがい」と話す。利用者が病気やけがの苦しみを忘れられる時間に―との思いから、毎週のように曲目を変更。誰もが歌いやすい曲を選ぶなど、日々工夫を凝らしているという。

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 音楽療法士は日本音楽療法学会などが認める民間資格。くらしき作陽大(倉敷市玉島長尾)のように養成課程がある大学や専門学校などで学んだ後、現場経験を3年以上積んだ人が認定される。

 認知症の高齢者に限らず、自閉症などの発達障害や精神疾患、交通事故の後遺症に苦しむ人に対しても行われる音楽療法。近年、導入する医療、福祉施設は少しずつ増えているというが、理学療法士らが行う通常のリハビリテーションと異なり、診療報酬の対象ではない。こうした背景もあり、県内では介護職と兼務したり、外部ボランティアなど、不安定な環境で取り組む人が大半を占めるという。

 それだけに専任職員の石井さんは、自身が恵まれた立場にあることを実感している。「音楽療法がもっと医療や福祉の現場に浸透し、評価されるようになれば」。理想を抱き、自身のレベルアップに日々全力を注ぐ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月19日 更新)

タグ: 健康

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