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(2)肺がん治療の最前線~患者さんに適切な治療を提供するために~ 国立病院機構岡山医療センター呼吸器内科医長 藤原慶一

藤原慶一氏

 近年肺がん治療の進歩はめざましく、手術、放射線治療、細胞傷害性抗がん剤治療の3本柱に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が加わり、治療選択肢が増えて複雑化しました。よって、患者さん個別に適切な治療を提供するために、まずは的確な診断をすることが重要となります。

 ■気管支鏡検査で安全かつ確実に診断

 当院では年間約350件の気管支鏡検査を行っています。そのうち肺がんの診断においては、仮想気管支内視鏡を用いて腫瘍の位置を同定し、ガイドシース法、超音波気管支鏡ガイド下針生検、超音波気管支鏡ガイド下ミニ鉗子(かんし)生検などの最先端のデバイスを用いることで診断率の向上を図っています。

 また、確実にがん細胞を採取できているかどうかを確認するため、迅速細胞診(Rapid On―Site cytologic Evaluation=ROSE)を取り入れています=図1。気管支鏡検査に細胞検査士や細胞診専門医が同席し、採取した検体についてリアルタイムでがん細胞の採取状況を助言するシステムで、正診率を向上させ再検査の可能性を少なくすることや、検査時間の短縮がなされています。

 ■非小細胞肺がんにおける遺伝子変異とPD―L1の同定

 以前は組織型診断に従い抗がん剤治療を行っていましたが、最近の「個別化治療」においては、治療方針決定のために遺伝子検査やPD―L1免疫染色検査などの分子診断が必須となっています。

 遺伝子検査の方法には、「コンパニオン診断」と「がんゲノムプロファイル検査」があります。「コンパニオン診断」とは、特定の分子標的薬の効果をあらかじめ調べる検査で、治療薬と1対1対応になっており、陽性になれば承認された有効な治療薬が提供可能となります=図2

 「がんゲノムプロファイル検査」は、がんが有する複数の遺伝子異常を一度に調べる検査で、がんの遺伝子異常の情報と、それに対応する薬剤の情報を知ることができます。

 当院ではこれらの検査に加えて、がんセンターを中心とした臨床研究「LC―SCRUM」にも参加しています。肺がんの患者さんを対象とした産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクトで、最先端の遺伝子検査技術を用いて、肺がんの原因となる複数の遺伝子変化を同時に調べることによって、患者さん一人ひとりにとって最適な治療法を検討します。また、参加可能な新薬の臨床試験も調べることができるというメリットもあります。

 一方、PD―L1はがん細胞に発現する免疫反応に関わる分子で、がん組織を免疫染色することで免疫チェックポイント阻害剤の有効性を予測することができます。腫瘍細胞にPD―L1が多く発現していれば高い効果が期待されます。

 このように、患者さん一人ひとりに合った有効な治療法を提供するためにさまざまな工夫や試みがなされており、よりきめ細やかな対応が求められる時代になりました。今後もさらに新たな診断・治療法が開発されることが期待されます。

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 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)

 ふじわら・けいいち 岡山大学医学部卒。岡山大学第二内科に入局し、癌研究会附属病院化学療法科、国立四国がんセンター内科、国立病院機構山陽病院などでの勤務を経て、2005年に岡山医療センター入職。12年より呼吸器内科医長。専門は肺がんを中心とした臨床腫瘍学。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年12月05日 更新)

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