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(7)地域の「食べる力」を引き出すために―病院歯科としての取り組み― 笠岡第一病院歯科医長 坂本隼一

坂本隼一氏

 病院歯科とは20床以上の病床を持つ医療機関に併設されている歯科のことを指します。全国に8千以上ある病院の中で歯科が併設されている病院は15%程度にすぎません。病院歯科では、口腔(こうくう)領域の腫瘍や外傷など口腔外科疾患に特化した歯科の高次医療機関としての役割や、がん患者さんなどの医科の支持療法としての歯科治療など、一般的な歯科診療所とは異なる役割を担っています。

 加えて、近年では医科入院をきっかけに見つかった、長期間歯科受診をしていなかったことから口腔内にさまざまな問題を抱えている患者さん、いわゆる歯科難民==の方々への関わりも注目されています。

 年を重ねると持病の悪化や日常生活自立度の低下、さらには交通手段の喪失などさまざまな理由により、70代をピークに歯科外来受診率は低下します。通院が困難となった方への支援として歯科訪問診療の拡充が推進され、多くの高齢者施設では協力歯科医院が設置されるようになりました。

 しかし、施設入所者への支援は行き届くようになった一方で、ご自宅で生活されている高齢患者さんへの支援はまだまだ不十分な現状があります。

 その結果、歯科受診が途絶えてしまい歯周病やむし歯の進行により口腔内が崩壊してしまった方、入れ歯の不具合などに陥りながらも我慢しながら、あるいは無自覚で長年過ごされていた方を入院患者さんでは多く見かけます。

 多くの病院歯科では誤嚥性(ごえんせい)肺炎の予防としての入院患者さんの口腔衛生管理だけでなく、摂食嚥下(えんげ)チームや栄養サポートチームとして多職種と連携を図りながら、入院患者さんの口腔、嚥下機能、栄養状態の管理に携わっています。

 病気を治すためにはお口からしっかり栄養をとることが重要です。口腔内が崩壊していると適切な栄養管理に支障をきたし病気の治癒を妨げます。入院時の歯科診察をきっかけに入院中に少しでも口腔内の状態を整え、患者さん個々の「食べる力」を引き出し、退院時に地域の適切な歯科医療機関につなぐ。このような取り組みが超高齢社会を迎えた現代において病院歯科に求められる重要な役割となっています。

 食べることは、人間の尊厳にも深く関わります。自分らしく生きるためにはいつまでも健康な口腔機能を保つ必要があります。年を重ねて身体が弱った時にお口の中がボロボロ、なんてことにならないように、今のうちにかかりつけの歯科医院をもち、元気で通院できる間に治すべきところは治し、定期的なお口の管理を継続することが、地域でいつまでも自分らしく生きるための第一歩ではないでしょうか。

     ◇

 笠岡第一病院(0865―67―0211)。連載は今回で終わりです。

 さかもと・しゅんいち 愛媛県愛光高校、岡山大学歯学部卒業。2013年より現職。歯学博士。日本補綴歯科学会専門医、日本老年歯科医学会専門医、日本臨床栄養代謝学会認定歯科医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年06月19日 更新)

タグ: 笠岡第一病院

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