文字 

(8)自然気胸に対する外科治療 倉敷中央病院呼吸器外科主任部長 小林正嗣

写真1

写真2

写真3

小林正嗣氏

 ■自然気胸とは

 自然気胸は、簡単に言うと肺がパンクした状態です。肺表面のブラ・ブレブと呼ばれる薄い袋が破綻し=写真1、空気が漏れて肺が縮んでしまいます=。症状は、突然の呼吸苦や胸痛を自覚します。自然気胸は、大きく二つに分かれます。一つは原発性自然気胸で、基礎疾患がない10歳代後半から30歳ぐらいの痩せ型で胸の厚みが薄い男性に多くみられます。突然の症状を自覚されて、受診することがほとんどです。CTで肺表面にブラ・ブレブを幾つか認めることが多いです。

 次に肺気腫や間質性肺炎などの肺疾患を患っている人が発症する続発性気胸といわれる気胸があります。CTでは、気腫性や間質性変化の影響で原因部位を特定することが困難なことがあります。原発性自然気胸は長身の若い男性に多く、続発性自然気胸は高齢者に多いという特徴があります。また、頻度は低いですが、遺伝性疾患や女性の生理の際に発症する月経随伴性気胸などがあります。

 ■自然気胸の治療

 自然気胸の治療法は3通りの方法があります。

 (1)経過観察 程度により、外来観察も可能

 (2)胸腔(きょうくう)ドレナージ(チューブを胸腔内へ挿入、肺から漏れ出た空気を脱気)

 (3)手術(ブラ切除・肺表面の補強)

 初めての気胸の場合、空気漏れが自然に止まれば胸腔ドレーン抜去を行いますが、一度自然治癒しても再発する可能性が50%程度、再発すると再々発の可能性が70%程度と非常に高い確率で再発します。よって、空気漏れが止まらない場合や再発を繰り返す場合、初回であっても原因となる嚢胞(のうほう)が明確に認識できる場合は手術治療を検討します。

 外科治療は、空気漏れの原因である袋(ブラ・ブレブ)を切除します。

 ■当院での取り組み

 当院ではほぼ全例、胸腔鏡手術で、胸部に1~2センチほどの皮膚切開を1~3カ所に行い、ここから胸腔鏡と手術道具を挿入してブラを切除します。最近では、若年者の気胸の多くが単孔式と言われる一つの穴で手術=写真2=を行っています。ただし、病変が多発する時や肺が胸壁と癒着している場合など胸腔鏡手術が困難である場合は、胸腔鏡補助手術や開胸手術で行うこともあります。

 ブラ切除する際に、切除近傍にブラが再発する可能性があること、他にも弱い部分を認めることもあり、再発予防に時間とともに体に吸収される特殊なシートで肺表面を覆って補強することもあります=写真3。このシートは人体には無害で弱い部分を割れにくくする効果があります。特に高齢者で肺気腫を合併している患者さんについてはいかに空気漏れを止めるかだけでなく、再発させずに元の生活で過ごせるようにすることが重要です。

 患者さんの病態を考えながら効果的で確実な治療を主治医の先生に相談しながら、決めていかれるのがよいでしょう。

     ◇

 倉敷中央病院(086―422―0210)。連載は今回で終わりです。

 こばやし・まさし 関西医科大学卒。長良医療センター、兵庫県立尼崎病院、東京医科歯科大学を経て、2020年から倉敷中央病院勤務、22年から呼吸器外科主任部長。呼吸器外科学会評議員、呼吸器外科専門医、日本外科学会指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年10月16日 更新)

ページトップへ

ページトップへ