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(7)高齢者の気胸について 岡山赤十字病院第2呼吸器内科部長・気胸センター長 佐久川 亮

佐久川 亮氏

■高齢者の気胸の特徴

 「気胸」とは肺に穴があき、胸の中(胸腔=きょうくう)に空気が漏れ、肺がしぼんだ状態のことを言います=図1。症状としては、胸が痛くなったり、肺がある程度までしぼんてくると息苦しさを感じたりします。今回は高齢者に多くみられる「続発性自然気胸」について述べたいと思います。

 「続発性」とは他の病気が原因となって引き起こされる疾患に対して用いられる言葉で、「自然気胸」とは外傷などの外的な要因がないにもかかわらず自然に肺が破れてしぼんだ場合のことを言います。

 高齢者の場合、肺気腫または慢性閉塞性肺疾患や間質性肺炎など、もともと肺の持病を有する患者さんが気胸を発症することが多いです。先行する肺の持病により普段から低酸素状態になりやすいため、少しの肺のしぼみでも重篤な呼吸不全状態に陥りやすく特に注意が必要です。また、持病や喫煙の影響により肺の組織がもろくなっている場合も多いため、若い人の気胸と比べて治りにくいのが特徴です。

 ある程度以上肺がしぼんでしまった場合には入院していただき、胸腔内にチューブを留置してしぼんだ肺を膨らませる治療(「胸腔ドレナージ」と呼びます)を行います=図2。胸腔ドレナージの治療だけでは肺からの空気漏れが止まらない場合には追加の治療が必要となります。若い人であれば外科手術を行う場合が多いのですが、高齢者では肺の機能が弱っていたり全身の体力が落ちていたりすることも少なくないので全身麻酔での手術が行えない場合もしばしばあります。このような場合には「胸膜癒着術」や「気管支充填(じゅうてん)術」を行います。

 ■胸膜癒着術

 胸腔内に留置したチューブを介して癒着剤を胸腔内に直接注入する治療法です=図3。治療の手技としては簡単に行えるところが利点ですが、肺の膨らみが悪い場合には十分な効果が得られない場合もあります。

 ■気管支充填術

 気管支内視鏡を用いて空気漏れにつながる気管支を内側からふさぐための治療法です=図4。専用のシリコン製の気管支充填材を目的とする気管支に詰めることにより、空気漏れを止めたり減らしたりする効果が期待できます。手術と比べて身体にかかる負担が少ないのが利点ですが、治療の手技としてはやや熟練を要します。当院は全国的にみても経験症例数が多く、蓄積されたノウハウを持っています。

 ■難治性気胸

 胸腔ドレナージを行っても肺からの空気漏れが長期間おさまらず、手術も困難で治療法が限られている症例を「難治性気胸」と呼ぶことがあります。そのような患者さんに対しては「気管支充填術」や「胸膜癒着術」を繰り返し行ったり複数の治療法を組み合わせたりしながら治癒を目指します。当院は「気胸センター」を有しており、「難治性気胸」の患者さんの治療にも積極的に取り組んでいます。

 ■禁煙が大事!

 高齢者の気胸は多くの場合、喫煙歴のある方に発症します。予防のため、治療を成功させるためには「禁煙」がとても重要です。肺がんや心血管疾患などの他の病気の予防にもつながりますので、たばこを吸われる方はぜひとも禁煙に取り組んでください。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)。連載は今回で終わりです。

 さくがわ・まこと 鹿児島大学医学部卒。岡山大学病院、香川労災病院、岡山県健康づくり財団付属病院などを経て2007年から岡山赤十字病院勤務。日本内科学会総合内科専門医・認定医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本呼吸器内視鏡学会専門医・指導医、日本エイズ学会認定医・指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年10月16日 更新)

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