文字 

(9)腰椎圧迫骨折に対する手術治療 津山中央病院脳神経外科医長 守本純

守本純氏

 脳神経外科では脳と神経を扱う外科として、脊椎脊髄の治療も行っています。頸(けい)椎症性脊髄症や腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症、腰椎椎間板ヘルニア、椎体骨折などさまざまな脊椎脊髄領域の疾患を扱います。

 いわゆる「せぼね」である脊椎の治療は神経と直接関連しないように思われますが、脊椎には運動器や体を支える柱という機能に加えて神経を保護する役割もあり、外傷や加齢に伴う変性などで脊椎が損傷した場合は神経損傷を予防するために脊椎の固定や除圧も行っています。

 この脊椎の損傷の中でも頻度が高いのが、一般的に「圧迫骨折」と呼ばれる骨粗しょう症性椎体骨折です。尻もちなど軽い外傷で起こることも多く、しばしば強い痛みを伴います。基本的な治療は安静と鎮痛剤を用いて十分な保存的治療を施すことであり、多くは時間の経過とともに椎体が変形のまま癒合し痛みが治まります。しかしながら高齢の患者様では、短期間であっても痛みで動けない状態が続くと筋肉量や骨密度の減少、さらには循環血液量や肺活量の低下などさまざまな弊害を伴います。加えて少数ではありますが、骨折による椎体の変形から下肢のしびれやまひなどの神経障害が遅発性に出現することもあります。

 当院においては骨粗しょう症性椎体骨折に対して、2011年に保険適応となったバルーンを用いた経皮的椎体形成術(Balloon Kyphoplasty: BKP)を行っております=図1。全身麻酔が必要ではありますが、数ミリの小さな切開で施術でき、麻酔も含めて1時間程度の手術で痛みが大幅に改善し、手術の翌日から積極的なリハビリテーションを行うことができ、経過が良ければ術後1週間で退院が可能です。またこの手術を行うことによって椎体の変形を抑えることができ、神経障害の予防にもつながります。

 BKPの問題点としては術後に隣り合う椎体が新たに骨折する合併症がまれに起こることがありますが、原因となる骨粗しょう症に対しても術前に骨密度測定や採血検査を行い、早期に骨粗しょう症に対して治療介入することと、正しいコルセット装着指導を行うことで、この合併症をなるべく避けることができると考えております。

 骨粗しょう症性椎体骨折の診断について、特に急性期にはレントゲン検査と比較し、MRIの診断率が感度・特異度ともに高いため、当科外来では可能な限り即日MRIを用いた確定診断を行います=図2

 BKPはすべての椎体骨折に適応できるわけではありませんが、MRIを含めた画像診断をもとに患者様の全身状態・希望も考慮して最適な治療を提案させていただきます。

 ◇

 津山中央病院(0868ー21ー8111)

 もりもと・じゅん 香川大学医学部卒。岡山大学大学院博士課程修了。岡山大学病院から新小文字病院(北九州市)脊髄脊椎外科へ国内留学。2021年4月から津山中央病院脳神経外科に勤務。医学博士。脳神経外科専門医・指導医、脳卒中専門医、脊椎脊髄外科専門医、日本脊髄外科学会認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年03月19日 更新)

ページトップへ

ページトップへ