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(9)心臓・血管疾患に対する集中治療(下)~長期予後とQOL改善を目指して 心臓病センター榊原病院院長補佐 近沢元太

近沢元太氏

 前回に引き続き、PICUの予防について説明します。

 病客およびその家族におけるPICSの発症を減少させるためには、その危険因子を予防または最小化するための方策をICU入室後できるだけ早期に開始する必要があります。

 具体的には(1)PICSの原因となる要因の除去、修正(2)早期リハビリテーションプログラムの実践(3)退院後のフォローアッププログラムの作成(4)精神的サポートの早期介入(5)ICU日記の活用(6)ケアによるICU環境調整(7)身体的・機能的回復の進捗(しんちょく)に関するチェックリストの作成(8)ABCDEバンドル―が挙げられます=図1

 ABCDEバンドルとは、2010年ごろから集中治療領域で提唱され始めた、人工呼吸器を装着された症例の治療においてPICSを予防するためにABCDEを頭文字とする管理をバンドルで行う概念と定義されています。

 さらにPICSの発症頻度を減少させるため、更にPICS―Fを予防するためにFGHが新たに加えられ=図2、最終的にはABCDEFGHバンドルとなりました。当院のICUでは、心臓血管外科の手術後をはじめ、生命維持・改善に不可欠とされる特殊な医療機器を必要とする重症の病客様に対する手厚い医療サービスの提供を行っています。

 昨年1年間に当院ICUへの入室病客総数1239人の平均年齢は74・7歳で、80歳以上がそのうちの約4割をを占めており、年々高齢化の一途をたどっております。近年、ますます多様化かつ複雑化する病態やその背景への柔軟な対応がICUでの医療サービスにおいて求められる状況の中、最重症の心臓血管・疾患を患った病客様に対しても高度な先進的医療技術を用いた手術やカテーテル治療を駆使することで、救命し得た病客様の割合や遠隔期における生存率も劇的に改善しました。

 ただ、重篤な心臓・血管疾患を抱える病客様の早期回復と長期予後の改善ならびに退院後、ご自宅に戻られた後の病客様ならびにそのご家族の日常生活の質(QOL)を向上させるためには、PICSならびにPICS―Fを発病するリスクを限りなくゼロに近づける取り組みが、今後ますます重要になってきます。

 当院では重篤な心臓・血管疾患を患った病客様が在宅復帰後の日常生活を安心して豊かに過ごすことができるよう、主治医ならびに集中治療専門医が看護師、臨床工学技士、理学療法士、薬剤師そして医療ソーシャルワーカーらと緊密に連携しながら、個々の病客様に見合ったロードマップの作成を行っております。

 ICUチームにおける多職種協働により、高度かつ専門性の高い医療サービスを常に病客様へ提供し続けることが、当院の果たすべき重要なミッションの一つと考えておりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年03月19日 更新)

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