文字 

岡山市立市民病院 人工関節手術を充実 支援ロボ導入 精度高める

支援ロボットを使って手術をする藤原医師(右から2人目)ら=岡山市立市民病院提供

術前に手術支援ロボットの作動具合を確かめる藤原医師

人工股関節の術前(左)と術後のエックス線画像

藤原一夫整形外科主任部長

 岡山市立市民病院(岡山市北区北長瀬表町)は、軟骨がすり減って激しい痛みを伴う膝や股関節を人工関節に置き換える手術の体制を充実させている。ナビゲーションシステムに続き、2021年に主に人工膝関節向け、23年末からは変形の強い人工股関節に適した手術支援ロボットをそれぞれ取り入れ、精度の高い手術を手がけている。

 通常の人工関節の手術は、医師が術前計画を立て、目測で判断しながら骨を切断しているが、画像が平面的で計画通りに手術を再現するには限界があった。

 より正確な手術を提供しようと、同院はまず、藤原一夫・整形外科主任部長が着任した2018年にナビゲーションシステムを導入した。

■立体画像で正確に

 ナビゲーション装置は手術野の周辺の骨の位置関係を読み取って、切除面の方向が正確かどうかをコンピューター画面上に立体的に表示する。医師は画像を確かめながら、人工関節を取り付ける部分の骨や軟骨を削る。

 しかし、それだけで全ての症例に対し完璧な手術が行えるわけではなかった。電動の手術器具で骨を切ったり穴を開けたりする際、振動で手ぶれが生じて位置や角度がわずかにずれる恐れは残ったままだった。

 「車の運転に例えると、ナビゲーションはあくまで目的地への正確なルートを示してくれるもの。悪路ではハンドルを取られることもある」と藤原医師。ハンドル操作の誤りとは術中の手ぶれを意味する。その問題を解決するため、手術支援ロボットの導入に踏み切ったという。

■患者の負担も軽く

 手術支援ロボットは骨を切る角度や量、人工関節のサイズや設置する位置を正確に3D画像で表示し、計画通りに執刀できるようアシストする。

 21年8月に取り入れた支援ロボットは、手術前にエックス線で撮影した患者の膝のデータをコンピューターに取り込んで精緻な手術プランを立ててくれる。ロボットアームが正確な骨切り位置に誘導してくれ、医師はこのガイドに沿って骨を切る。

 同院の支援ロボットによる手術件数は昨年末現在、360件に上る。さらに、日本人に多い変形の強い股関節症にも対応可能な支援ロボットも必要と判断し、CTを基に動く別の支援ロボットを昨年12月に導入した。

 両支援ロボットとも、人工関節を埋め込む位置を0・5度、0・5ミリという細かいところまで微調整できる。手ぶれを抑えることができ、埋め込む位置にほとんど狂いは生じない。ロボットアームが計画から外れた位置に来ると、自動的にストップするため、関節周辺の余分な筋肉や血管などを傷付けることがない。

 骨や筋肉を切る量が少なくて済み、患者の負担が軽い。手術が正確なため、人工関節自体の摩擦や緩みも防止でき、耐用年数の向上にもつながることが期待されている。

■生活をサポート

 同院によると、膝と股関節のいかなる症状にも対応できる支援ロボット2基を導入しているのは岡山県内で初めてという。

 藤原医師を中心に、人工膝関節向けの機器は4人が担当。人工股関節向けの新しい機器はこのうちの3人が手術を受け持っている。

 高齢化に伴って、膝や股関節の痛みに悩む人は増えている。藤原医師は「日常生活に支障を来して困っている患者さんに、より良い手術を提供できる体制が整った。痛みから解放され、日々の生活を楽しめるようサポートしたい」と話す。

膝や股関節の痛み 治療法は? 藤原一夫整形外科主任部長に聞く

 膝や股関節の痛みはなぜ起きるのか。どんな治療法があるのか。岡山市立市民病院整形外科主任部長の藤原一夫医師に聞いた。

 変形性の膝関節症や股関節症は主に関節の軟骨がすり減って起こる。軟骨は元には戻らないため、進行すると痛みが生じて歩くのに支障を来す。加齢や肥満が原因であることが多い。関節内の滑膜に炎症が起こり軟骨や骨が破壊される関節リウマチや、骨に血液が流れなくなる大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)なども歩行が困難になる要因となる。

 40代以上の中高年に多く、特に女性がかかりやすい。閉経すると軟骨を守る役割がある女性ホルモンの分泌量が減少することが多く、症状が進行しやすい。

 治療はまず、ダイエットなどの生活指導、運動療法、鎮痛剤の使用をし、痛みが強い場合には手術が有力な選択肢となる。変形が軽い場合は内視鏡での手術や、関節の向きを矯正する骨切り術で対応することもある。症状が重くなると人工関節に置き換える手術を行う。回復が順調なら軽いスポーツを楽しむことができる。

 術後の合併症では、エコノミークラス症候群と呼ばれる、長時間体を動かさないことで起こる深部静脈血栓塞栓症に特に注意が必要となる。当院では、術中から術後にかけて血栓を予防するフットポンプを装着したり術後に血液を固まりにくくする薬を投与したりして防止に努めている。

 人工関節の手術はかつて主に60歳以上の症状の進行した人を対象にしていた。インプラントの耐久性が向上し、今では40~50歳代でも行うことができるので、遠慮なく相談してほしい。

 ふじわら・かずお 岡山白陵高校、岡山大学医学部、同大学院卒。岡山大学整形外科助教、岡山大学医歯薬学総合研究科運動器知能化システム開発講座准教授を経て、2018年4月から岡山市立市民病院勤務。岡山大学医学部医学科臨床教授。医学博士。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会指導医・専門医、日本人工関節学会認定医・評議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年03月19日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ