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(1)肺がんに対する単孔式肺切除術 岡山ろうさい病院胸部外科部長 黒崎毅史

単孔式手術では40ミリの創部から複数の手術器具を挿入する

黒崎毅史氏

 人生において2人に1人ががんに罹患(りかん)するといわれています。中でも肺がんの罹患数は年々増加し毎年12万人以上が発症し、7万人以上が命を落とすという、全がん種の中でも死亡数がトップの悪性腫瘍としては代表的な疾患です。肺がんの治療法は年々進歩していますが、5年生存率は40%程度で、早期発見、早期治療が最も重要となります。

 肺がんは放射線療法、化学療法、手術療法と三つの治療法があり、早期肺がんに対しては手術療法を第一に検討することになります。日本胸部外科学会の集計(2018年)では、肺がんに対する手術は年間約4万5千件施行されており、そのうちの75%が胸腔(きょうくう)鏡手術で行われています。

 ひとえに胸腔鏡手術といってもさまざまなものがあり、直視併用(小開胸)手術、多孔式手術(通常の完全鏡腔鏡下手術)、ロボット支援下手術、単孔式手術が挙げられ、それらの術式による傷の長さは最大で3~8センチと幅があります=

 また、胸部手術における術後の問題点として肋間(ろっかん)神経障害に伴う神経障害性疼痛(とうつう)があります。神経障害性疼痛を認めた場合、3~6カ月程度で改善することが多いですが、中には永久に残存する患者さんもおられ鎮痛剤を中止できないこともあります。

 ロボット支援下手術や多孔式手術は1~4センチの孔を全部で3~6個を必要とし、2~4肋間にわたり孔を作製するため、肋間神経を損傷する危険性が高くなります。一方、単孔式手術では3~4センチの孔が一つだけになり手術操作と切除肺の取り出しを全て同じ孔で行います。そのため、損傷する可能性のある肋間神経は1カ所だけですので、神経障害性疼痛が出現する可能性は低いとされています。

 私は単孔式胸腔鏡手術を19年12月に前任地で導入し、当院では21年10月から開始しました。単孔式手術は国内で徐々に広まってきていますが、手術操作の難易度が上がるため、実施施設は限られます。当院では、導入以来大きな合併症はなく順調に症例を重ねており、術後疼痛および神経障害性疼痛で困っている患者さんは従来法と比較して明らかに少ないと感じています。

 いかなる病期の肺がんでも早期発見、早期治療を行うことがとても重要です。単孔式手術は従来の方法に比べて痛みが少なく早期に社会復帰が可能と考えます。肺がんを疑う異常を指摘された場合はぜひ当院にご相談いただければと思います。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 くろさき・たけし 岡山城東高、順天堂大学卒業。岡山赤十字病院、香川労災病院、岡山大学病院などを経て、2021年から岡山ろうさい病院に勤務。日本外科学会認定外科専門医、呼吸器外科専門医合同委員会認定呼吸器外科専門医、日本移植学会認定移植認定医、日本呼吸器外科学会認定胸腔鏡安全技術認定医、卒後臨床研修指導医、緩和ケア研修会修了。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年04月02日 更新)

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