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(下)岡山済生会総合病院内科主任医長 渡辺恭子

 前回に続き、アンチエイジング(抗加齢)についてお話しします。

たばこ

 発がんや肺気腫等の問題だけでなく、動脈硬化の原因として重要です。イギリスの約3万5千人を50年観察した研究では、喫煙者は、非喫煙者に比べ10年寿命が短かったという報告があり、BBC(英国放送協会)は双子が40歳までたばこを吸った場合と吸わなかった場合の予想図を出して注目されましたが、皮膚の老化も進みます=図参照

良い脂肪と悪い脂肪

 脂肪の中には、動脈硬化を起こしやすい飽和脂肪酸(常温で固まる、動物性脂肪など)と血管の内皮機能を改善しサラサラにする不飽和脂肪酸(魚油に多い、ω(オメガ)3脂肪酸―EPA・DHA)などがあります。

 アザラシを主食とするグリーンランドのイヌイット族はω3脂肪酸が多く、デンマーク人に比べ心筋梗塞など虚血性心疾患が少ない報告や、米国の看護師さん8万人の8年間にわたる調査で、魚摂取が多い群が明らかに虚血性心疾患が少なかったという報告があります。

 ω3脂肪酸が多い、しらす干しやアジ・イワシ・サケ・サンマも取りましょう。

抗酸化物質

 ビタミンC・E・B6・B12や、最近よく聞かれるポリフェノールは270万種もあり、ブドウのレスベラトロールやリンゴが有名ですが、その他たくさんあります=表参照

 またアスタキサンチン(サケ・エビ・カニ)はビタミンEの1千倍の抗酸化作用もあるため化粧品にも使われたりしています。

 糖化ストレスは老化を促進し、清涼飲料水(ジュース)等を飲む人で脳梗塞の発症が多いという報告もあるため、緑茶やウーロン茶、コーヒー(ブラック)、水等が好ましいでしょう。

睡眠と体内リズム

 2002年のアメリカの110万人の調査では、男女とも1日7時間睡眠する人が最も長生きでした。睡眠にかかわるホルモンとしては、成長ホルモン・メラトニン等があります。成長ホルモンは加齢とともに低下し、皮膚のうるおい・骨密度や免疫力が落ちますが、最も多く分泌される深夜2時前後に深い睡眠に入るのが良く、10時くらいに就寝しましょう。

 メラトニンは脳の中心の松果体から出るホルモンで体内時計を調整する作用を持ち、活性酸素を除去する作用もあります。1―3歳がピークで、70歳を超えると10分の1に減少します。朝日を浴びてのウオーキングや光を消して床に入る等のリズムを作りましょう。

口腔の健康と噛むこと

 噛むことは脳に刺激を与え、認知症の予防になります。あまり噛めない実験動物モデルでは、認知機能が低下し、神経細胞が減少していました。1千人の高齢者が記憶テスト前に2分間ガムを噛むと脳の血流が増し、記憶力が良くなったとの報告もあります。いわば“噛むことは脳のアンチエイジング運動”なのです。また顔面の筋肉の70%は口腔周囲に集中しているため、噛むことによって表情筋も鍛えられ、しわ・たるみを防ぎ、唾液分泌を増やせます。

ストレスを避けましょう

 2011年のサイエンスという有名科学誌に、「Happy People Live Longer」という総説が載り、大きな話題になりました。24の研究をまとめたメタ解析で「幸せな人は幸せでない人に比べ寿命が14%長い。先進国に限ると平均7・5年寿命が長い」と発表されました。オランウータンの研究でも、ハッピー・普通・アンハッピーに分けたところ、ハッピーなオランウータンの死亡率が低いと同時に発表されています。

 ストレスの多い人のテロメア(染色体末端)は短くなる等、心と長寿関連パラメーターの研究も増えてきていて、ポジティブ心理学も注目されています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年04月08日 更新)

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