文字 

(3)腰痛治療は主体的に 笠岡第一病院付属診療所 健康増進クラブONE 健康運動指導士 石部豪

石部豪健康運動指導士

 腰痛(腰痛症)は、日本人の約8割が一生に一度は経験すると言われる腰背部に疼痛(とうつう)が生じる疾患の総称です。発症から3カ月以内のものを急性腰痛症、3カ月を超えたものを慢性腰痛症と呼びます。症状が発症時に強烈なわりに、予後が良好で急性腰痛症の90%は3カ月以内に改善し、残り10%が慢性化すると言われています。

 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄(きょうさく)症、圧迫骨折など原因が特定できる腰痛(特異的腰痛)は約15%(感染症や内臓疾患が原因となるのは1%以下)にすぎず、原因が特定しきれない腰痛(非特異的腰痛)が約85%と多いのが現状です。原因が多岐にわたり複合的な症状も多く、腰痛で複数の医療機関を受診しても、それぞれの医療機関から異なる病態説明を受けることも珍しくはありません。

 腰痛診療ガイドライン(2012年、日本整形外科学会)において腰痛治療の考え方のポイントは、(1)完全な病態解明が困難(2)急性期でも絶対安静は禁物(3)ストレスは腰痛発症と慢性化の要因(4)慢性腰痛症には運動療法が効果的(5)レントゲンなどの画像検査が不要な場合もある―が挙げられています。

 急性期は安静が必要ですが、安静が過ぎると腰痛の悪化や慢性化の原因となるため、装具療法(コルセット)などを利用しながら可能な範囲内の日常生活を続けることが大切です。また、腰痛に対する不安や恐れ、人間関係や仕事などのストレスといった心理・社会的要因が非特異的腰痛に関与しており、それらを軽減させる認知行動療法(心理療法)も有効とされています。

 今年6月、厚生労働省は腰痛が職業性疾病(労働災害)のうち6割を占めることを受けて19年ぶりに「職場における腰痛予防対策指針」を改訂しました。この中で腰痛予防対策のため運動療法(ストレッチ)が推奨されています。

 腰痛に対する運動療法(腰痛体操)と言えば腹筋運動や背筋運動ばかりに意識が向きますが、筋肉の連鎖運動の強化も大切です。簡単にいうと「筋肉を上手に無理なく動くようにすること」です。また、臀部(でんぶ)に痛みのくる坐骨(ざこつ)神経痛(臀部からふくらはぎの後ろにかけて痛みが出る症状)の原因に梨状筋(りじょうきん)症候群(股関節にある梨状筋が緊張して神経を圧迫して起こる)があり、この場合は股関節周辺の筋肉の柔軟性が関係します。腰椎(腰の骨)と股関節は連動して動くことが多いため、股関節周辺の筋肉の柔軟性が低下すると腰椎が過剰に動くために腰痛を来します。この予防・改善のために運動療法として、脊柱安定化運動(仰向けで両ひざを曲げ腰椎を床に押し付ける)や腰部のストレッチを行いましょう=図参照

 腰痛が起きた時は、医師の診察を受けて適切な治療を開始することが重要です。私たちの施設では、医師の診察やリハビリテーションが必要な患者さんは笠岡第一病院(笠岡市横島)で医師、理学療法士らによる診療を受けた上で、症状に合わせて健康増進クラブONE(笠岡市二番町)での運動療法を指導しています。他の療法や対症療法が“受け身の治療”であるのに対して運動療法は“主体的な治療”であり、からだを動かすことで、痛みに対するストレスから解放され、リラックスすることで心理面での効果も期待できます。

 日常生活の中でも腰痛を起こさないように無理な姿勢や中腰で重い物を持つ動作、同じ姿勢を長く続けたり繰り返す生活習慣にも注意が必要です。歩行が不安になったらステッキやシルバーカートを使用するよう心掛けましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年09月16日 更新)

タグ: 健康笠岡第一病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ