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市民公開講座「もっと知ってほしい 口・のどのがん」 岡山大学病院頭頸部がんセンター

海老原氏と岡山大学病院医師らが参加したパネルディスカッション

国立がん研究センター東病院名誉院長 海老原敏氏

(左から)木股敬裕センター長、小野田友男副センター長、白川靖博・消化管外科講師

 岡山大学病院頭頸(とうけい)部がんセンターの市民公開講座「もっと知ってほしい 口・のどのがん」(山陽新聞社共催)が9月15日、岡山市北区駅元町の岡山コンベンションセンターで市民285人が参加して開かれた。寛仁(ともひと)親王の主治医を務めた海老原敏氏や同大の専門医が最新治療などを紹介し、パネルディスカッションでは患者の目線でがんとの向き合い方を探った。

 パネルディスカッションは、海老原氏と岡山大学病院の医師ら6人が、がん患者のQOLの維持向上のために治療、予防で大切なことを話し合った。(司会は大立本紙編集委員)

 ―がんを放置することはどうなのか。

 海老原氏(耳鼻咽喉・頭頸部外科) がんを見つけて放っておく可能性があるとすれば、前立腺がんの一部と、甲状腺にできる乳頭がんぐらい。それ以外は治療した方がいい。

 ―喉頭がんの治療法はどう選ぶべきか。

 小野田友男氏(耳鼻咽喉・頭頸部外科) 放射線治療の方が声の機能を残せるが、がんが非常に大きい場合は手術となる。喉頭を摘出しても、新しく声を獲得する方法はある。

 ―舌がん切除・再建で機能面はどうなる。

 木股敬裕氏(形成外科) 切除が舌の約半分までだと会話、食事は普通にできる。3分の2や全部取っても、残る中咽頭などの機能で十分生きられる。気力が大事。

 ―抗がん剤は副作用が気になる。

 田端雅弘腫瘍センター長(腫瘍内科) 効く人を選んで使えば、効果の方が大きい。今は吐くこともほとんどなく、午前中に治療を受け昼から出勤している人もいる。

 ―副作用の嘔吐(おうと)や下痢時、食事の工夫は。

 坂本八千代栄養管理室長 吐き気のある場合は少しずつ回数を増やし、果物やアイスクリームなど食べやすい物を食べる。下痢時は脂っこい物を控える。脱水症状に注意し、水分補給を。

 ―口腔(こうくう)がんで失った歯の再建は可能か。

 水川展吉頭頸部がんセンター長補佐(歯科口腔外科) 一般的に入れ歯を使うが症例によっては困難。昨年4月、インプラント(人工歯根)治療が一部保険適用になった。

 ―腹部に穴を開け、管を入れて栄養を送る胃ろうをどう思う。

 坂本氏 食べられなくなった時、第2の口として栄養を確保できる。胃腸をちゃんと動かすために大事。不要になったら、管を抜けば穴はふさがる。

 ―がん治癒後、容姿や機能で苦しむ例は。

 木股氏 顔の変形、骨が壊死(えし)し激痛が走るなど、後遺症で苦しんでいる人が大勢いる。正常に戻すのは難しいが、当センターは積極的に治療している。

 ―がんの再発へどう向き合うべきか。

 海老原氏 プラス思考で定期的に通院し、次のがんを早く見つけ治すこと。ただ早期の下咽頭がんで粘膜を次々取り、粘膜がなくなった時の対応が課題。

 ―抗がん剤の頭頸部がんへの効果の程は。

 田端氏 進行したがんを薬だけで治してしまう力はないが、がんを縮小する効果はある。手術や放射線治療と組み合わせることでより機能を残せたり、治癒率を上げることができる。

 海老原氏 遠隔転移が出てくる上咽頭がんや、下咽頭がんでもリンパ節への転移が多い場合は抗がん剤を使った方がいい。

 ―あらためて、がん予防の注意点は。

 小野田氏 酒は飲み過ぎず1日1合(180ミリリットル)までにし、できるだけ早く禁煙を。

 ―歯科医の立場からはどうか。

 水川氏 虫歯や金属の冠のとがった部分、合わない入れ歯は舌、口の粘膜を傷付けがん化を高める。抜歯後に傷の治りが悪い場合、がんの可能性がある。

 ―がん治療の将来は。

 海老原氏 小児や若い世代を、先の人生に禍根を残さないように治すことが中心になるのでは。iPS細胞は組織欠損を補うのに利用されることは考えられるが、現段階ではがんになる可能性もあり簡単には使えない。
 

国立がん研究センター東病院名誉院長 海老原敏氏
早期発見で治癒増える


 頭頸部がん手術の第一人者、海老原敏・国立がん研究センター東病院名誉院長(75)は「がん診療50年の歩み」と題し、がん治療の変遷や課題を語った。

 同センターが1962年、東京に創設されたころは「治るがんは乳・子宮・頭頸部がんぐらいだった」とし近年、医療技術の進歩で早期に発見、治るがんが増えたと概説。治療法は舌がんでも放射線中心だったが「再発時の対応が難しいことなどにより、体の組織を移植し再建する術法の発達で手術が主流になった」と述べた。

 「会話や摂食、声などの機能温存を心掛けてきた」と自ら執刀した舌・咽頭・喉頭がんの難症例を紹介。昨年亡くなった寛仁親王の話を交え、複数のがんが生じる多重がんに触れ「次に出てくるがんをいかに早く見つけ、機能を残して治すかが問題」と指摘した。


〈頭頸部がんセンター設立〉 木股敬裕センター長
患者のQOLを大事に


 頭頸部がんは舌、歯肉、咽頭、喉頭など、首から上の目や脳を除く部分に生じる。発生頻度は全がんの5%以下だが、会話、食事、呼吸、顔の動きや形態といった人間のQOL(生活の質)に直結する。最先端の医療だけでなく、患者さんの人生、仕事の背景、家庭環境、生活状況を考えながら治療することが大事。当センターは国立大学病院で初めて昨年4月開設し、医師、歯科医、リハビリ、栄養士ら多職種のチーム医療で対応している。


〈診断と最新治療〉 小野田友男副センター長
初期は内視鏡下切除で


 初期がんなら、小さな切除や内視鏡下切除のみで治療できる。喉頭がんでは発声機能を残すため、放射線治療を選ぶ場合もある。しかし、再発や進行したがんだと切除範囲が大きくなる。上顎(じょうがく)がんでは、がんに栄養を送る血管に高濃度の抗がん剤を注入し、同時に放射線治療を実施。さらに残ったがんを切除後、肋骨(ろっこつ)を移植し患部を再建する例もある。早期発見が大事で、咽頭がんではNBI(狭帯域光観察)内視鏡が診断に役立っている。


〈予防と生活習慣の改善〉 白川靖博・消化管外科講師
飲酒が最大のリスク


 口・のどと食道がんの危険因子はほぼ同じで、合併することが多い。喫煙、野菜・果物を食べないこともリスクになるが、最大の原因は飲酒。アルコールは酵素の作用でアセトアルデヒド、さらに酢酸に分解される。このアセトアルデヒドが元凶で、国民の半数は解毒酵素の働きが弱い。飲んで顔が赤くなる人は口・のどや食道がんになりやすい。酒を節制するのが理想だが、せめて40歳を超えたら定期的に内視鏡検査を受け用心してほしい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年10月07日 更新)

タグ: がん岡山大学病院

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