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(5)潰瘍性大腸炎・クローン病治療 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院 竹馬彰理事長

大腸の内視鏡検査をする竹馬理事長。「わずかな炎症も見逃さない」と目の前のモニターを凝視する

患者に治療方針を説明する竹馬理事長。笑顔で接することが患者の安心にもつながる

 瞳はモニターを見つめたまま。時折、喉仏が上下する。大腸の内視鏡検査。スタートから約15分後。「心配ないですよ」。男性患者に語りかけ、ようやく柔和な表情に戻った。

 竹馬は、国の特定疾患(難病)に指定されている潰瘍性大腸炎とクローン病の専門医。もともと消化器外科医。外科医でありながら日常的にこの難病治療に携わっている医師は岡山県内では非常に少ない。

 内科的治療から外科的治療まで、利点や欠点、治療の必要性をきちんと説明できることが竹馬の強み。受け持つ患者は約400人に上る。

 両疾患とも消化管に炎症が起き、下痢や腹痛、血便などの症状が出る。潰瘍性大腸炎は、炎症の起きる場所が大腸に限定される。一方、クローン病は口から肛門までの消化管全体に炎症が飛び飛びに起きる。特に小腸と大腸の境目に生じやすい。

 国内の患者数は近年、増加の一途をたどり、潰瘍性大腸炎が約14万人、クローン病が約3万6千人。10〜30代の若い層に発症する割合が高いが、潰瘍性大腸炎は中高年層にも発症する。遺伝的要因や食事などの環境的要因が絡み合い、免疫に異常が生じ自分の腸の粘膜を異物と認識して攻撃すると考えられているが、はっきりした原因は不明だ。

 内視鏡だけでは明確な所見が得られず、初期の場合は一過性の感染性腸炎と見分けが付きにくいこともある。治療方法が全く異なるだけに、経過観察しながら慎重に確定診断をつけることも珍しくない。

 治療は薬物療法が中心。まずは、大腸と小腸ともに作用するペンタサ、大腸だけに作用するアサコールなどを服用。症状が強い場合は、ステロイドのプレドニゾロンなどを併用する。

 炎症にかかわる物質の働きを抑制する生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ)が登場し、近年、治療は飛躍的に進歩した。

 腕に刺した針から血液を抜いて専用装置で炎症の要因となる物質を取り除き、再び血液を体内に戻すGCAP(ジーキャップ療法)も行っている。

 これらと食事療法を組み合わせることにより、全体の約9割が症状が落ち着いた寛解に達する。

 ただし、薬によってはアレルギー反応や白内障を引き起こしたり、顔がまん丸にむくむといった副作用が出ることがある。

 「どういう薬や療法を組み合わせたり、効果が確認できた場合に薬を減らしていくか、医師の技量が問われるところだ」

 あらゆる手を尽くしても症状が改善しない場合、潰瘍性大腸炎なら大腸を切除し、小腸の一部を使って便をためる袋をつくる手術をすることがある。クローン病は狭くなった腸管を広げる手術をし、それができない場合は薬物療法や食事療法での落ち着きどころを探る。

 炎症が長く続くと、健康な人に比べ、大腸がんの発症リスクが高くなることも分かっており、定期的な内視鏡検査が欠かせない。

 竹馬が難病に関心を抱くようになったのは、1992年にチクバ外科・胃腸科・肛門科病院に勤務してから。内視鏡検査で発見するケースが年々増え、疾患の拡大を実感。「病気の進行を食い止め、日々の生活に困らないようにしてあげたい」と思うようになった。

 周期的に寛解と悪化を繰り返す病気。「腹痛ぐらいで…」と、つらい症状を周囲に理解してもらえず、苦しむ患者が少なくない。「患者さんとは長い付き合いになる。生活での困りごとなどにも耳を傾け、信頼関係を築かなければ」と言い聞かせる。

 座右の銘は<実るほど頭を垂れる稲穂かな>

 徳を積むほど他人に謙虚になるという意味だ。難病に立ち向かう竹馬の心意気に重なる。

 2012年4月には、看護師、薬剤師、管理栄養士、調理師、臨床工学技士らに呼び掛け、プロジェクトチームを立ち上げた。各分野の専門性を結集し、さらに質の高い医療を提供するためだ。

 「病気を上手にコントロールしながら、前向きに生きている患者さんを見ると、スタッフ全員が勇気づけられる。万能薬が誕生する日を待ち望みながら、治療に当たりたい」

(敬称略)

 ちくば・あきら 倉敷天城高、香川医科大(現・香川大医学部)卒。栃木県立がんセンター、恵佑会札幌病院を経て、1992年、チクバ外科・胃腸科・肛門科病院に勤務。2012年8月から現職。日本大腸肛門病学会指導医、外科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本医師会認定産業医。51歳。

食事療法 米中心の炭水化物摂取が基本

 潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患では、その病状に合わせて食事療法を取り入れることが必要になる。

 基本は、米を中心とした炭水化物を取ること。1日に必要なエネルギーの60%以上を主食で確保するのが理想。米に含まれる難消化性でんぷんが腸内環境を整え、便を固くする作用もある。

 タンパク質は豆腐などの大豆類や魚など脂質の少ないものを中心に取る。脂質の多いものは腸管への刺激が強く、大腸のぜん動運動を必要以上に活発にし、下痢や腹痛を引き起こす。食物繊維も繊維質が多いと、便の量が増え大腸の粘膜を刺激するため、注意が必要。出血を伴う場合は、わさび、からし、こしょうなどの刺激物や、アルコール類を控える。

 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院では、年に3回、患者と家族を対象にした料理講習会を開いている。


◇ チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(倉敷市林2217、(電)086―485―1755)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年08月18日 更新)

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