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(10)不整脈 岡山ハートクリニック院長 村上充 アブレーション治療で心房細動根治へ

むらかみ・たかし 香川県立丸亀高、岡山大医学部卒。岡山大病院第一内科助手、心臓病センター榊原病院内科部長、同内科主任部長など経て2009年3月から岡山ハートクリニック副院長、12年3月、同院長。医学博士。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本循環器学会中国地方会評議員、日本不整脈学会不整脈専門医。49歳。

 ―不整脈の大まかな区分から。

 村上 大きく分けると、脈が速くなる頻脈性の不整脈、ゆっくりになる徐脈性不整脈、それと、一般に「脈が飛ぶ」といわれる期外収縮。この三つに区分できます。

 ―不整脈の中にも重大なものと、それほどでもないものがありますね。

 村上 期外収縮は普通はそれほど心配する必要はありません。怖いという意味では、代表格が頻脈性不整脈の一つに数えられる心室細動。これは直接、死に結びつきます。

 ―怖いですね。他に注意すべき不整脈は。

 村上 頻脈性不整脈で多いのが、年齢とともに病気を持っている人の割合が増し、私や当院のスタッフが診断・治療に力を入れている「心房細動」です。高齢化の進展でますます増えていくと考えられます。

 ―あらためて不整脈のメカニズムと、心房細動の説明を。

 村上 心臓は一定のリズムで収縮を繰り返しています。このリズムをつかさどるのが右心房にある洞結節という部分です。洞結節の指令により1分間に50~100回、心臓は規則正しく動いている。ところが何かの要因で余分な電気の発生源や通り道ができ、拍動のリズムが乱れるのが不整脈です。心房細動では心房の筋肉が痙攣(けいれん)し、その結果心房に血液が停滞して心房内に血栓(血の塊)ができやすくなる。その血栓が脳の血管に詰まると、脳梗塞の中でも最も重症の脳塞栓症になります。心房細動は70代で5%、80代で10%程度が発症するとされています。

 ―脳梗塞を招くとは深刻ですね。なぜ余分な電気の通り道などができるのでしょう。

 村上 高血圧や加齢により心臓をつくる筋肉が“しわく”というか固くなる。筋肉の周囲に繊維が増えてくるのが一因ですが、こうなってくると心房内の電気の伝わり方にむらができ、信号に不均等が生じる。その結果、不整脈になりやすくなるわけです。高血圧などの基礎疾患を早期に治療しておくことが大切です。

 ―なるほど。でも年を取るのは止められない。

 村上 そうですね。適度な運動やバランスのよい食事により、血管を「若々しい状態」に保つこと。これが不整脈の予防にもつながります。

 ―症状としては。

 村上 動悸(どうき)や息切れ、脈の乱れ。健診時などの心電図で不整脈が分かることも多い。意外なサインとしては、頻尿でしょうか。心臓の筋肉に利尿ホルモンの一種がある関係で、頻尿傾向と不整脈が結びついている場合があります。

 ―不整脈の治療法は。

 村上 従来は薬で症状を抑えることしかできませんでした。しかし、ここ十数年の間にカテーテルアブレーション(心筋焼灼(しょうしゃく)術)という治療ができるようになりました。細い管を脚の付け根の静脈などから入れ、心臓まで送り込んで不整脈の元になっている部位を高周波で焼くのです。心房細動では多くの場合、左心房にある肺静脈の周囲から余分な電気信号が出ているのが原因。この信号を遮断するため、肺静脈の周囲を焼きます。もちろん全部とはいきませんがカテーテルアブレーションによって初めて、不整脈の根治が可能になりました。

 ―画期的ですね。治療の実際をもう少し詳しく。

 村上 電気信号の乱れの原因部分を“テロリスト”としますと、彼らを囲むように焼いていくんです。心房細動では2カ所になります。初期にはテロリストをピンポイントで攻撃していたのですが、これだと他の場所にもいるテロリストが次から次へ騒ぎ出し、すぐ再発してしまう。どこかの国と同じですね。一定のエリアを焼いて周囲との連絡を断つ形にすることで、十分な効果が得られるようになりました。手術に要する時間は2~3時間が目安でしょうか。

 ―治療法としての歴史が浅い半面、この先も進歩が期待できますね。

 村上 心房細動自体まだまだ分からない点がたくさんあり、その解明に取り組まねばなりません。しかし、私がより強く望むのはこのアブレーション治療の普及と、認知度の向上です。これまで医師は「心房細動は年のせいだから、諦めてうまく付き合いましょう」と話し、その結果人によっては仕事を辞めたり、趣味や旅行を諦めてきました。アブレーション治療が始まった今もそうした状況が全面的に変わったわけではありません。さらに、薬で脳塞栓の危険は減りますがゼロになるわけではない。かかりつけ医の先生方にもアブレーション治療を広く知ってもらい「諦めない」機運が社会に広がってくれればと思います。

◇ 岡山ハートクリニック(岡山市中区竹田54の1、(電)086―271―8101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年10月20日 更新)

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