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関節の話(2)膝関節 倉敷中央病院整形外科部長 村上弘

村上弘整形外科部長

図1・2

高齢者の膝痛について

 多くの人が年をとると膝の痛みを自覚します。主な原因は変形性膝関節症によるものです。これは、病気というよりは膝の老化による変形からくる疼痛(とうつう)です。膝の痛みと一言にいっても程度はさまざまです。大まかに軽い方からいうと

(1)正座やしゃがみ込みが痛いけれど、そのほかはまったく痛くない

(2)立ち上がりが痛くても、立ち上がってしまえば歩くのはまったく問題ない

(3)階段や坂道での歩行は痛くても、平地歩行では痛くない

(4)痛みのため平地歩行に支障がある

(5)膝痛のため外出していない

となります。

診断について

 変形性膝関節症の程度は膝軟骨がどれほど擦り減っているかによって判断されますが、それはレントゲン検査で分かります。骨と骨の間にある隙間が軟骨がある部位なのですが、その隙間の減少がすなわち、軟骨の擦り減り具合を示しています。図1のように軟骨がなくなってしまい、骨同士が当たってくると平地歩行にも疼痛が出現する人が多くなり、外見上もO脚を示すことが多くなってきます。

運動について

 年をとってくると、よく運動が勧められます。膝痛があるのに運動なんて無理じゃないか、と思われている人は多いのではないかと思います。

 運動の主な目的は体全体の健康維持です。仕事を引退した高齢者である程度の歩行運動をする人と、歩行運動をしない人を比べると歩行運動をしている人の方が寿命が長いことが分かっています。太ももの筋力を維持することは膝痛予防に効果がありますが、無理な運動はかえって膝痛を惹起(じゃっき)させます。ですので専門家の相談のもと、各個人の年齢、体の状態に応じた運動が勧められます。

膝痛に対する治療

 年とったら膝や腰の痛みはしようがないといわれていた時代もありますが、老化した膝に対する治療は進みました。しかし、残念ながら治療をすれば膝痛が完全になくなるとはいえません。外出歩行運動を行うことが長寿命につながりますので、高齢の方の膝痛に対する治療は、平地歩行がある程度できるようにすることが大きな目標となります。

 つまり、正座は不可能で階段昇降はつらくても平地歩行はできて、外出できることが大切で、これが大きな目標であるということです。膝痛治療としては外用薬塗布や鎮痛剤内服による薬物治療、膝筋力増強リハビリ、膝サポーター等装具装着、ヒアルロン酸関節内注射、人工膝関節全置換術等の手術があります。

人工膝関節全置換術について

 軟骨が消失し、変形の強い膝の患者さんには、人工膝関節全置換術という手術が勧められます。これは老化した膝を人工の膝関節(図2)に置き換えるというものです。膝痛が強く、膝の変形が強い人もこの手術をすることにより膝痛がかなり軽減し、下肢がまっすぐになって歩行しやすくなります。現在、日本では毎年約8万人の方がこの手術を受けられています。

 長期術後成績も安定しているので、手術以外の治療では膝痛が強い方は、専門家に相談されるのがよいでしょう。

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倉敷中央病院((電)086―422―0210)

 むらかみ・ひろし 広島学院高、京都大医学部卒。同大学院医学専攻科博士課程修了。京都大病院整形外科、小倉記念病院、日赤和歌山医療センターなど経て、2001年から倉敷中央病院。医学博士。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、体育協会公認スポーツ医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年06月01日 更新)

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