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(4)糖尿病治療薬を使うにあたって 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

松木道裕院長

 糖尿病は膵(すい)臓から分泌されるインスリンの作用不足で起こってきます。インスリンの作用不足が強くなり、食事・運動療法を行っても血糖のコントロールが得られない場合に、薬物療法が必要になります。

 糖尿病治療薬には内服薬と注射剤があります。内服薬には働きの違う経口血糖降下薬が7種類、注射剤にはインスリン製剤とGLP―1受容体作動薬の2種類があります(表1)。それぞれの薬物の特徴について示します。

 経口血糖降下薬は働きの違いによってインスリン分泌を高める薬剤(インスリン分泌促進薬)、インスリンの働きを改善する薬剤(インスリン抵抗性改善薬)、糖の吸収・排泄(せつ)を調節する薬剤(糖吸収・排泄調節薬)に分類されます。糖尿病患者の病態に適した薬剤が選択されます。具体的には、やせ型の2型糖尿病にはインスリン分泌促進薬が使われ、肥満傾向にある2型糖尿病にはインスリン抵抗性改善薬や糖吸収・排泄調節薬が使われます。

1.経口血糖降下薬

(1)インスリン分泌促進薬  

 スルホニル尿素薬(SU薬)、速効型インスリン分泌促進薬、DPP―4阻害薬があります。

 SU薬は膵臓からのインスリン分泌を促進し、1日1~2回の服薬で十分な血糖改善効果が得られます。効きすぎると低血糖を起こすことがあり、注意が必要です。また、食事療法が遵守できていないと肥満を助長することがあります。速効型インスリン分泌促進薬はSU薬と同じ機序で効果を発揮しますが、SU薬ほど作用持続時間は長くありません。毎食直前の服薬で食後の高血糖を改善する効果に優れています。

 DPP―4阻害薬は現在国内の糖尿病患者の6割以上に使われている薬です。腸管から分泌されるインクレチンというホルモンの濃度を高める薬です。低血糖を起こしにくく、体重増加も来しにくいという特徴があります。

(2)インスリン抵抗性改善薬 

 ビグアナイド薬とチアゾリジン薬があります。インスリンの働きを改善して血糖値が高くなるのを防ぎます。これらの薬だけで治療する場合、低血糖を起こすことはほとんどありません。

(3)糖吸収・排泄調節薬

 α―グルコシダーゼ阻害薬は食事中の炭水化物を分解する酵素の働きを抑えて、消化管からの糖の吸収をゆるやかにして、食後の血糖上昇を抑えます。

 一方、SGLT2阻害薬は腎臓からの尿糖の排泄を増やして血糖値を改善する薬です。糖尿病患者が服薬すると、1日に約300キロカロリーに相当するブドウ糖が排泄されます。体重減少効果があり、肥満を持った糖尿病患者に有用です。

2.注射剤

(1)インスリン製剤

 食事・運動で血糖コントロールが得られない1型糖尿病や、内服薬で血糖コントロールが難しい2型糖尿病患者にインスリン療法が行われます。また、最近は内服薬で治療する前に一時的に使用することがあります。インスリンには作用持続時間の違いによって主に食後の血糖を抑える製剤、空腹時血糖を改善する製剤、さらに両者をあらかじめミックスした製剤があります。最近、インスリン注射システム(図1)は著しく進歩しており、注射操作も簡素化され、注射による痛みも少なくなっています。

(2)GLP―1受容体作動薬 

 DPP―4阻害薬とともに、インクレチン関連薬の一つです。直接、膵臓に働いてインスリンの分泌を促進します。食欲を抑え、体重減少効果が期待できます。

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 糖尿病に用いられる薬の種類が増え、働きの違う薬を併用することで、良好な血糖コントロールが得られやすくなりました。できる限り早い時期から薬を使って良好な血糖値を維持することが大切です。

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 倉敷スイートホスピタル((電)086―463―7111)

 まつき・みちひろ 大分上野丘高、川崎医大卒、同大大学院修了。同大講師、准教授、川崎医療福祉大教授を経て、2012年から現職。日本糖尿病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月20日 更新)

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