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(17)泌尿器がん・男性不妊 川崎医科大学泌尿器科学教室 永井敦教授 前立腺 組織内照射療法で根治も

 ながい・あつし 愛媛・愛光高、岡山大医学部卒。同大病院講師などを経て、2006年1月から川崎医科大教授。13年から副院長を併任する。日本泌尿器科学会指導医、日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医など。日本泌尿器科学会監事、日本性機能学会副理事長、日本生殖内分泌学会理事など務める。58歳。

 ―主ながんや疾病の手術、検査件数は。

 永井 昨年1年間の手術は、前立腺がんは92例、ぼうこうがんは113例、腎がんは17例、前立腺肥大症が34例。前立腺がんを見つけるために組織を採取する生検が131例でした。

 ―前立腺がんの特徴は。

 永井 PSA(前立腺特異抗原)検査による早期発見が可能です。50歳を超えると毎年検査を受けた方がよいでしょう。患者は年々増えており、国立がん研究センターのがん統計予測では、今年の男性のがん罹患(りかん)率は胃がん、肺がん、大腸がんを抜いてトップになるといわれています。

 ―前立腺がんの治療方法は。

 永井 転移のない場合は放射線療法や手術を選択します。川崎医科大病院では腹腔(ふくくう)鏡の実績が高く、加えて、視野が広がるため神経を温存しやすいといわれる手術支援ロボット「ダヴィンチ」も近く導入予定です。PSA値が20を超えているような高リスク症例でも、私どもが行っているHDR(高線量率組織内照射療法)であれば根治が期待できます。一方、転移性のがんは原則としてホルモン療法を選択します。

 ―HDRは全国最多の実績があります。

 永井 HDRは1997年にスタートし、これまでに千例を超えました。手術で前立腺を取り除くと、尿失禁や勃起障害となる確率が高いのですが、HDRなら前立腺を残すことができます。低リスクから高リスクの症例まで適用可能なことも特長です。5年生存率は96・1%で、手術の場合と変わりません。

 ―具体的な方法は。副作用はありますか。

 永井 前立腺にイリジウム線源(直径0・9ミリ)を通す針(平均13本)を刺し、その人の前立腺の大きさや形にマッチして放射線が照射されます。針を刺している時間は約6時間ですが、排尿障害がないかどうかの確認などを含め2泊3日の入院が必要です。退院後は3週間かけて、外照射といって体の外から放射線を前立腺に計13回照射します。1回当たりの時間は10分程度です。その後2、3年間は3カ月に一度、落ち着けば6カ月に一度、PSAをチェックし再発がないかみていきます。早期には一時的な排尿困難や頻尿、血尿など、晩期には尿道狭窄(きょうさく)や直腸潰瘍といった副作用が出る場合があります。

 ―ぼうこうがんの特徴は。

 永井 ぼうこう壁にまで浸潤していない表在性のケースが70~80%を占め、開腹せずに内視鏡でがんを焼き切ることができます。前立腺がんは一度手術すれば根治することが多いのに対し、ぼうこうがんは再発が多いのがネックです。それでも5年生存率は95%に及びます。自覚症状がないので定期的な検査が大切です。検査はファイバースコープで直接ぼうこう内を調べます。CTや超音波では腫瘍が大きくなってからでないと見つけにくいのです。

 ―腎がんはどうでしょう。

 永井 健康診断のCTや超音波などで発見されるのが一般的です。ぼうこうがんと違い、血尿などの自覚症状が出ると手遅れになることが多いです。腎臓の外に浸潤すれば5年生存率は40~60%程度、転移すれば10%程度に低下します。ただ原発巣が局所にとどまるなら腹腔鏡で切除できますし、進行が緩やかなので、早期発見さえできれば必要以上に恐れることはありません。治療は手術が一般的です。近年は腎臓を全摘せずに部分切除する割合が増えています。

 ―男性不妊外来も担当されています。どんな症例に対応していますか。

 永井 最も多いのは、不妊の原因の約30%を占める精索静脈瘤(精巣へ血液が逆流し精子の数や運動率が低下する状態)が見つかった方への手術です。手術方法は鼠径(そけい)部を少し切って精索の中の静脈を結びます。局所麻酔で1時間半ほどで終了し2泊3日の入院で済みます。動脈やリンパ管を傷つけず、静脈のみを切除する高度な技術が求められるため、この手術ができる施設は非常に少なく、県外からも大勢の患者が来られます。手術により、精巣で作られる精子のDNA損傷が改善され妊娠率が向上します。

 ―手術実績と成果は。

 永井 男性不妊への理解が広がっているからでしょうか、手術件数は2010年の15例から、14年は60例に増えました。当院で06~14年にかけ手術をした方の中から追跡可能な71例を集計したところ、51例で妊娠したことが分かりました。うち13例が自然妊娠でした。想像以上の成果で、患者さんにとっても私たち医師にも非常に励みになるデータです。

 ―他の不妊の原因、治療法は。

 永井 精子を運ぶ管が詰まる精路閉塞が不妊原因の14%を占め、精管と精管あるいは精巣上体管を縫い合わせます。約8%を占める染色体異常はクラインフェルター症候群という無精子症が一般的です。この場合はわずかに精子が作られている可能性があるので、精巣の中の精細管を顕微鏡で調べ、精子を採取し凍結保存し、顕微授精します。これらも精索静脈瘤と同様に取り組める施設が限られています。また、不妊原因不明の造精機能障害の場合は、精子の質を改善し運動率を向上させるため、サプリやビタミン剤といった保存的治療を行います。

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 川崎医科大学病院(倉敷市松島577、(電)086―462―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月05日 更新)

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