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(2)経皮的大動脈弁植え込み術(TAVI) 倉敷中央病院 心臓血管外科主任部長 小宮達彦

ハイブリッド型手術室

小宮達彦心臓血管外科主任部長

 前回は大動脈弁狭窄症(AS)についてお話しました。おさらいですが、ASを発症すると弁の開きが悪くなるため、全身に十分な血液を送り出せなくなります。呼吸困難や息切れなどの心不全症状が進行し、突然死のリスクも高いです。手術は、胸の真ん中を約20cm切開して胸骨という骨を縦切りにし、人工心肺を装着して、心停止下に病気の弁を新しい人工弁に取り替えます。人工弁置換術は安定した成績を誇る治療方法で、現在でも治療の基本線です。

 ただ、患者さんへの負担が大きいため、超高齢の患者さんや体力の著しく低下している患者さんは手術ができませんでした。そのような患者さんには、カテーテルを用いた治療法「経皮的大動脈弁植え込み術(TAVI)」があります。今回は2013年に保険適用となった先進治療TAVIについてお話します。

 治療の流れですが、超音波検査や心臓カテーテル検査などで心臓や血管の状態を詳しく調べます。心臓血管外科や循環器内科の医師や看護師、臨床検査技師らで構成する「ハートチーム」でカンファレンスを行い、治療や術後のケアについて意見交換します。TAVIは手術室と血管造影装置を統合させたハイブリッド型手術室で行います。

 TAVIはカテーテルを用いて硬くなった大動脈弁の内側に人工弁を植え込む治療方法で、鼡径(そけい)部の大腿動脈から挿入する経大腿アプローチが第一選択です。足の血管の動脈硬化や蛇行・変性が激しい患者さんには胸を小さく切開し、心臓の先の心尖(しんせん)部、あるいは大動脈からカテーテルをいれる経心尖部・経大動脈アプローチなどで実施します()。人工心肺は使用せず、胸部の大きな切開もないため、患者さんの負担が軽減できます。時間も平均約1時間半で、早い場合だと1時間を切ることもあります。

 この治療方法はフランス人医師が考案し、07年にはヨーロッパで、11年にはアメリカで治療法として承認されました。国内では10年から治療の承認を目指し、当院と大阪大学医学部付属病院(大阪府)、榊原記念病院(東京都)の3施設で治験が始まり、成績が外科手術とほぼ変わりなかったことなどから13年より保険適用となりました。「外科手術とカテーテル治療に習熟した医師が一定数所属」「ハイブリッド手術室など充実した施設を有する」など、厳しい基準を満たした施設のみが実施できます。

 当院は治験施設として早期からTAVIに取り組み、これまで100例以上に実施しています。15年度は38例実施し、患者さんの平均年齢は85歳と高齢で、手術リスクの高い方を治療しています。経大腿アプローチが20例、経心尖部アプローチが18例でした。

 TAVIの歴史はまだ浅く、術後の長期成績は明らかではありません。全身に血液を送る大動脈にカテーテルを通すことによる動脈損傷や、かたい人工弁による心臓の損傷により生命に危険を及ぼす可能性があります。またペースメーカーの植え込みが必要になる合併症も起こり得ます。経験を重ねることで安定した成績が得られるようになっていますが、まだ危険性の少なくない治療です。弁の性状によっては通常の外科的大動脈弁置換術の方が安全性が高い場合もあります。手術を行ってよいかどうかは、ハートチームで十分な協議を行って決定しています。

 繰り返しになりますが、治療の基本線はあくまで外科手術です。担当の医師としっかり話をして、疾患・治療方法への理解を深めることが大事です。また、ASは症状が出現してからでは遅い場合もありますので、定期的な健康診断受診もお勧めします。

◇ 倉敷中央病院(086―422―0210)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年06月20日 更新)

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