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安全対策の甘さ露呈 高松・受精卵取り違え 揺らぐ「命の現場」

 「子ども」を願う夫婦の思いは踏みにじられた。19日に疑いが明るみとなった香川県立中央病院での受精卵取り違え。別人の培養容器に女性の名前を記したふたをかぶせるという担当医(61)の単純ミスが原因だった。不妊患者にとって最後の頼みの綱である体外受精で、医療現場の安全対策の甘さが露呈された。

 「生命の根源を扱う不妊治療の場で、このような事態を引き起こしてしまった」。会見した松本祐蔵院長は苦渋の表情を見せた。

 体外受精で生まれる子どもは次第に増加し、年間約2万人。およそ55人に1人とされる。一般的な医療として定着する一方、命を預かる医療現場の受精卵管理対策は遅れており、今回のような事態が懸念されていた。

 福岡市の医療機関のスタッフが全国の不妊治療施設を対象に昨年行った調査によると、取り違え防止・対応マニュアルが整備できていない施設は76%に上った。取り違えなどの事故を身近に感じたことがあるという「ヒヤリハット」事例も49%が経験していた。

 年間86人(2008年)の体外受精の実績を持つ香川県立中央病院でも、防止・対応マニュアルは未整備。担当医はこれまでに体外受精を約1000件手掛けているが、日本産科婦人科学会が徹底を求める保存容器の色分けなどは行われていなかった。受精卵の確認も1人で行い、チーム医療の基本である複数でのチェックはしていなかった。

 「あってはならないこと。このような報告は初めてなのでコメントしようがない」。日本生殖医学会のコメントが深刻さを物語る。

 同病院は「医療安全確保にさらなる努力を図る」とする。失った信頼を取り戻すため、細心の注意と生命への敬意を払うという医の原点に立ち返る必要がある。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年02月20日 更新)

タグ: 女性お産

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